「1年でスピードは3倍に」
誰の目にもわかる、明らかな数字で中国人型ロボットの進化が示されたのは、4月に中国・北京で開催された人型ロボットのハーフマラソン大会でのこと。優勝したのは、大手スマートフォン・メーカー、栄耀(Honor)が開発したロボット「閃電(ライトニング)」だが、その記録がすさまじい。
タイムは50分26秒。前年優勝ロボットの記録から3分の1以下に短縮された。人間男子のハーフマラソン世界記録(57分20秒)も上回っている。走行バランスの改善、モーターの出力、部品の耐久性、発熱対策などがこの1年で劇的に進んだことのあらわれだ。
ハードウェアだけではなく、ソフトウェアの進化も著しい。前年の大会ではソフトウェアは遠隔操縦型、操縦者伴走の半自動型、自律型のすべてが認められていたが、今大会では操作型はタイムに1.2倍をかけるハンデをつけての競争となった。
先の50分26秒の記録は自律型によるもの。「閃電」には遠隔操縦型もエントリーしていたが、こちらのタイムは48分19秒と純粋なタイムでは上回っているが、1.2のハンデをかけて約58分という記録で優勝を逃した。
順位以上に注目すべきは自律型と遠隔操縦型のタイム差が2分程度しかないという点だ。自律コントロールのレベルの高さを示している。
中国人型ロボットの進化を伝えるニュースはこれだけではない。2月には旧正月のテレビ特番「CCTV春節聯歓晩会」(通称、春晩)に4社もの人型ロボットが登場した。アクロバティックなカンフーショーや、服をたたむ細やかな動きのアピールなど各社が異なる強みをアピールしている。
中国版紅白歌合戦と呼ばれる春晩だが、芸能だけではなくテックの祭典になっている点が日本とは大きく異なる。毎年、IT企業が数百億円もの巨額を投じてスポンサー枠を獲得し、目玉サービスを大々的にアピールする。
スマホ決済やEC、ショート動画アプリなど春晩をきっかけにシェアを伸ばしたサービスは多い。この2年ほどは人型ロボット企業のアピールの場となっている。
人型ロボットは古くからSF小説やアニメに登場する「未来社会の代名詞」とも言える。日本や米国をはじめ、世界各国で開発が続けられてきたが、その中でも中国の強みはどこにあるのだろうか?
最大の特長は圧倒的な物量だ。中国・新戦略人型ロボット産業研究所によると、2025年4月時点で全世界の人型ロボット本体の開発企業は300社強。そのうち中国は150社強を占めている。世界の人型ロボット企業の半分は中国にあるのだ。
いや、そればかりではない。その後も猛烈な勢いで増えており、25年末には200社を突破したと伝えられている。
企業数が多いのは、部品やソフトウェア、データを提供する産業エコシステムの整備が進んでいるためだ。新興企業であってもスピーディーに新製品の投入が可能だ。設立からわずか半年程度の新しい会社が立派な製品を発表することも珍しくない。
企業数だけではなく、台数も圧倒的だ。調査会社カウンターポイントによると、25年の導入台数上位4社はいずれも中国勢。5位にようやく米テスラがランクインしている。
全体で1万6000台が導入され、うち中国勢のシェアが8割を超えるという。中国メーカーはその後も生産能力拡大を急ピッチで進めており、26年の導入台数は前年比で10倍に達するとの推計もある。
この圧倒的な物量を見ると、人型ロボット産業の勝敗はすでに決したかのようだ。太陽光パネルや風力発電、バッテリー、そして電気自動車(EV)など、中国は近年、いくつもの新興産業分野で覇者としての地位を築いてきた。人型ロボットでも同じことが繰り返されるのだろうか。