Netflixが変えた日本の放送モデルーIP戦略は“体験”・インバウンドを視野に、WBCが示すメディア産業の構造転換

2026.03.26 Wedge ONLINE

 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本国内での独占配信権をNetflixが獲得したことは、日本のメディア・コンテンツ業界にとって歴史的なパラダイムシフトである。これまで「巨大スポーツイベントは地上波テレビを通じて全国民が無料で視聴する」というのが日本特有の視聴文化であったが、その前提が大きく崩れ去った。

動画配信サービスに押される中、日本のテレビ局はどう変わるべきなのか(Robert Way/gettyimages)

 ライブスポーツはテレビ広告モデルを根底から支える重要なキラーコンテンツであったが、サブスクリプション型のストリーミング企業にとっても、新規会員の獲得や視聴時間の増加を促すための強力な戦略資源となっている。外資系プラットフォーマーの資本が本格的に侵入してきたことは、放送局を中心とした旧来の国内メディア企業がかつてない生存の危機に直面している。

 しかし、この激動の変化を単に「テレビ局がインターネット対応に遅れて弱体化し、Netflixが強者となった」というような表層的な二項対立で捉えるべきではない。世界のエンターテインメント・メディア市場は2029年に3.5兆ドル規模へ拡大すると予測されており、デジタル広告やコネクテッドTVなどがその成長を牽引していく。こうした構造的変化の中で、日本に残された未来は決して悲観一色ではない。

 日本の強みであるアニメやゲームなどのIP(知的財産)は世界的に極めて高い競争力を持っている。次の10年は「旧来型のメディア企業としては存続が危ういものの、強力なコンテンツを起点とするIP国家として極めて大きな可能性を秘めている」という二面性を持った未来が待ち受けている。

〝黒船〟に押される3つの要因

 現在の日本のメディア産業が、外資系の巨大プラットフォームの攻勢に対して構造的に劣勢を強いられている背景には、三つの複合的な要因が存在している。

 第一に、長らく続いた国内広告市場への過度な依存である。22年時点での日本の放送産業の総収入約3.86兆円のうち約8割を地上波放送が占めていた。さらに、23年の民放テレビの広告収入だけでも約1.7兆円に上り、国内の広告市場だけで莫大な収益を確保できるビジネスモデルが構築されていた。

 この豊かで巨大な国内市場の存在は、日本のメディア企業から、あえてリスクを取って海外市場を開拓するインセンティブを相対的に奪い去る要因となった。

 第二に、巨大な資本力とテクノロジーを持つグローバルなデジタルプラットフォーム企業の出現である。NetflixやAmazonといった企業は、数億人規模という圧倒的なグローバル会員基盤から得られる莫大な収益と資金力を背景に、世界規模で一挙にコンテンツの権利を獲得する能力を備えている。これにより、一国家の国内市場だけを前提とする日本のテレビ局とは、根本的に異なる次元の競争条件が作り出されてしまった。

 第三に、コンテンツIPの国際展開戦略における産業ごとの分断と遅れである。日本のアニメ産業は近年、急速に海外市場を開拓しており、24年には海外市場規模が2兆1702億円に達し国内市場を上回る成長を見せているが、一方でテレビ番組や実写ドラマ、音楽コンテンツなどの多くは依然として国内市場向けに最適化されており、企画段階からグローバル市場を前提とするビジネス設計が欠如していた。

世界のメディア・コンテンツ業界の今後

 今後10年間で、世界のメディア・コンテンツ産業の構造はさらに根本的な変容を遂げていく。以下の四つの潮流が同時進行すると予測される。

 第一に、ストリーミング配信は単なる「完成した作品の出口」ではなく、事業全体の中核をなすインフラストラクチャーへと進化し、それ自体がIP競争のあり方を規定する基盤となる。作品を放送・上映して終わるのではなく、視聴者の視聴データ、課金に至る行動履歴、視聴を離脱した要因、越境での視聴動向、さらには熱狂的なファンによって作られたコミュニティや文化「ファンダム」の形成過程に至るまでを精緻に把握・分析できる企業が市場の覇者となる。