自分の本音を包み隠さず打ち明けることを「腹を割る」と表現します。あなたは、「腹を割って」人と話したことはありますか? 「実は自分はこんなことを考えていたんだ」とずっと言えずに心の中に秘めていた考えを、思い切って相手に伝えるところを想像してみましょう。あるいは「本当はこれが苦手なんだよね」「本当はこれが好きなんだ」と、本音をありのままに伝えるとなると、どんな感情がわくでしょうか。
ちょっと怖いと感じるかもしれませんね。なぜなら、自分の本心を打ち明けたところで、相手に受け入れてもらえるかはわからないですし、もしかしたら、相手を傷つけたり、怒らせたりするかもしれないからです。せっかく打ち明けたのに、相手が自分のことを軽蔑するかもしれませんし、反撃するかもしれません。それらのことで、自分自身が傷ついてしまうかもしれない、と考えると、怖くなるのも当然です。
「腹を割る」という言葉を文字通り想像したとき、切腹して傷を開き、腹の中を相手に見せるという姿が思い浮かびます。痛いなんてもんじゃありませんよね。だってお腹を開いているのですから。本心を相手に見せることは、それだけ痛みを伴うことです。痛いし、怖いし、勇気がいることです。
それだけのリスクを背負いながらも、思い切って自分の本心をさらけ出して、相手に受け入れられた時の感覚は、いったいどんなものでしょうか。
「聞いてくれてよかった」という安心感が心の底からわいてきます。そして、受け入れてくれた相手に感謝の気持ちを抱くかもしれません。
相手はどうでしょうか。思い切って本心を伝えてくれたということは、自分を信頼してくれたということだ、と認識します。すると、「自分のことを信頼してくれてありがとう」という嬉しい気持ちになります。さらに、「実はそんなことを考えていたんだね」と相手の知らなかった一面にふれることができ、相手のことをより深く知ることができるでしょう。腹を割って本心を伝えることが、相手との信頼関係を築くことにつながるのです。
ところが、最近では、あえて自分らしさを出さないようにしている人が増えています。先に書いた通り、本音を出した時に相手がどのような反応をするかわからない状況で、自分らしさを表現することはリスキーだからです。
心理学では、苦手な場面や恐怖を感じる場面を避ける行動を「回避行動」といいます。より深い人間関係を築き、自分らしさを表現したいという思いを持ちながらも、相手に攻撃されるのではないか、理解されないのではないかという不安が先に立ち、自分をさらけ出すことを回避するのです。結果、表面的な人間関係を形成することになり、自分らしさを発揮する機会を失うことになります。
例えば、会社の人と話す内容は業務に関係する伝達事項にとどめ、プライベートの話はしない、という人が増えてきました。ひと昔前は、飲みニケーションがもてはやされ、プライベートの様子や本音を語ることで、お互いの人柄や考え方を知り、人間関係を構築することが重視されたのです。そうしたうえで、仕事を円滑に進めたものですが、現在は敬遠される傾向にあります。
職場では、できるだけ感情を隠し、淡々とタスクをこなし、論理的に問題解決方法を提案し、結果は数値で示す。その過程で、悩んだり、葛藤したりする内面の動きを、誰にどのように見せるか、あるいは誰にも見せないで一人で抱え込むか。多くの人は心の奥に迷いを抱えたまま過ごしているのです。
オンとオフの切り替えも明確に分ける人が増えました。音楽やエンタメなど個人的な趣味は職場の人には知られたくない、プライベートな時間は自分だけのものとして守りたい、という人も少なくありません。個人的に好きなものを相手に知られた時にお気に入りのアーティストについて批判されたくないですし、自分の嗜好傾向を知られるのが恥ずかしいという人もいます。最近では、パワハラが問題視されるようになり、上司も部下に対して気安くプライベートな内容をたずねにくくなりました。上司の側も「業務以外のことをうっかり聞いてパワハラ扱いされたくない」と自衛意識が働き、表面的なコミュニケーションにとどめようとするのです。
となると、悩みが生じた時、どのように解決すればよいのでしょうか。一人で心の奥に抱え込むと、グルグル思考につかまり、同じことを何度も繰り返し頭の中で考えるようになります。答えを見つけるために考え始めるのですが、いつのまにかグルグルと自分の思考につかまり、結局自分がどうしたいのか、何をしたいのか、分からなくなることがあります。
カウンセリングでは、語ることで自分の考えを整理する認知過程を取り扱います。一人で考え事をすると頭の中で考えますが、カウンセリングでは自分の言葉で自らの思いをカウンセラーに話します。対話の中から徐々にテーマが深まり、自分が本当はどうしたいのか、何をしたいのかが明確になってくるのです。