道を極める

世の中の正解の真逆をいけ!
新市場を開拓した“我流ビールづくり”への想い

2016.12.06 公式 道を極める 第9回 井手直行さん

こだわりのビールを排水溝へ
「売れない、飲まれない」暗中模索の末に辿り着いた覚悟

井手氏:ぼくが入社した90年代後半は、政府によるビール醸造への規制緩和で、全国各地に小規模なビール醸造メーカーが誕生し、いわゆる「地ビールブーム」が起こりました。しかしぼくたちは、ご当地限定の「地ビール」をつくろうとしたのではなく、職人がつくるこだわりの「クラフトビール」のメーカーを目指しました。「日本に新しいビール文化を根付かせたい」と意気込んでいたのですが、思わぬ展開に戸惑っていました。

営業担当としてこの大ブームを経験した時、「まあ、よく売れるなぁ」というのが、正直な感想でした。ところが2000年に入ると、そのツケが回ってきました。あれだけ鳴り止まなかった注文の電話が、ぱったりと止んだんです。こちらから流通業者さんなどにお願いしても断られるばかり。そして、まさかの「売れてないね」というお言葉。

――天国から一転、どう対処したのでしょう。

井手氏:一体何が起きたのか。やはり、好調なときには見えてこなかった問題が噴出し、売れ行きが傾いた途端、社内の雰囲気もどんどん暗くなっていきました。テレビCMを打っても、小売店への営業を強化してみても、一向に売り上げは変わりません。何をやっても売れない。それでも営業を頑張って、主力製品である「よなよなエール」の大手コンビニ販売までこぎつけました。ところが、欠品を防ぐため生産設備をフル稼働させたことが、すべて裏目に出ました。製品はまったく売れず、生産過剰により在庫を抱えることに。つくりすぎてしまったビールは、酒税の還付もあるので、泣く泣く排水溝へ……。いや、涙も出ませんでした。

それから雪深いスキー場でビールを売ったり、店の軒先で試飲販売など、できることは思いつく限りやっていましたが、焼け石に水でした。何をやってもダメだと、やはり会社の雰囲気も悪くなってきて、不満が渦巻いていました。陰口悪口が横行。社員が次々と辞めて、社内にはネガティブな空気が渦巻いていました。

希望になる材料がひとつもない。今までだとここで終わりですが、相談に応じてくれた星野からは「とことんやろうよ。それでダメだったら会社をたたんじゃおう。そして一緒に釣りでもして余生を過ごそう」と。

「釣りなんてしないのに」。多くの想いを共有してきた星野の言葉に、どうせならやるだけやってみよう、この仕事に人生をかけてみようと覚悟を決めました。「どうすれば売れるか」、失敗の原因ではなく成功への道筋を探すように。そうして、見える景色が変わり、まだやっていないことがひとつ見つかりました。インターネット販売です。

「死中に活」
起死回生のネット事業とチームビルディング

井手氏:これにかけるというよりは、もうこれしかありませんでした。ぼくがネット通販をはじめた時、社内の反応は決して温かいものではありませんでした。快く思わない人もいましたが、初心者向けの講座に通って基礎からネット販売を勉強しました。

そうして、それが売り上げのV時回復に繋がり、素人からはじめたネット事業は、楽天市場の「ショップ・オブ・ザ・イヤー」を受賞するまでに。赤字続きだった業績は、増収増益へと進むことになっていきました。

――逆境から、「やりきる」ことができたのは。

井手氏:「なぜ、自分が残りやりきることができたのか」、ぼくも自分に問うてみました。それまでの仕事は、自分の責任感で動いていました。逆に言うと、責任でないと思えば、どこか他人事に思うようなところもありました。

ところがネット販売を手がけるようになって、責任感ではなく、ファンの声が直接自分に届く喜びがあったんです。責任感でやっていたことが、ビールを待ってくれているお客様の喜びのために仕事をできるようになったんです。

そうして喜びを感じる中で、もうひとつ発見がありました。ぼくたちが喜びを感じたことで、これを誰かにまた届けたいと思う。これこそが、ヤッホーブルーイングが進むべき道だと。お客さんを楽しませるには、まずは社員が楽しんでいないと。

それからは、チームビルディング強化に重きをおいてきました。こうしてぼくは、お客さんと社員に育てられたんです。今の仕事は天職だと思えました。ファンに喜んでもらえて。こんな仕事に巡り会えて本当によかった、と。

新しいビール文化を創り、幸せを分かち合う
ビールエンターテイメント企業の2020未来計画

――今も昔も、多くのファンに支えられています。

井手氏:ファンは、自分たちのすべての源。「お客様は神様……」ではなく、ビールを通じて一緒に幸せを感じていける仲間だと思っています。企業とは普通、利益を目指すものですが、それは最終的な目的ではありません。誰かの喜びがあって、そこに利益がついてくる。そう思える仕事ができていることに幸せを感じます。実は、2020年に全国ドームツアーを開催しようと目論んでいます。ファンの皆さんと一緒に絆を深める大きなイベントです。

そのためには、2019年、2018年と逆算が始まっていて、19年の東京ドームは、もう予約してしまおうという話になっています。ファンとの絆こそが、ぼくたちヤッホーブルーイングの起死回生の原点であり、存在意義でもあるんです。

「ビールを通したエンターテイメント企業」として、楽しいひとときをお届けし、分かち合いたい。新しいビール文化をファンの皆様といっしょにつくりたい。これからも、あの手この手で、仕掛けていきますので、皆さんどうぞ楽しみにしてくださいね。

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アルファポリスビジネス編集部
アルファポリスビジネス編集部

アルファポリスビジネス編集部は厳選した人物にインタビュー取材を行うもので、日本や世界に大きく影響を与える「道」を追求する人物をクローズアップし、その人物の現在だけでなく、過去も未来の展望もインタビュー形式で解き明かしていく主旨である。編集部独自の人選で行うインタビュー企画は、多くの人が知っている人物から、あまり知られることはなくとも1つの「道」で活躍する人物だけをピックアップし、その人物の本当の素晴らしさや面白さを紐解いていく。

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