トップの力 ジョンソン・エンド・ジョンソンで学んだ経営の極意
Getty Images

トップとして、ビジネスパーソンとして
人として最も大事な力

今回で「トップの力」の一年間の連載が終わる。連載の掉尾(ちょうび)を飾るテーマは何かと考えた。経営者にとって、ビジネスパーソンにとって、人にとって最も大事なことをテーマにしたかった。その結果、選んだのがこの「学ぶ力」である。真の学ぶ力とは、本を読んで勉強する力のことではない。勉強は、教科書に書いてあることを学習することだ。

物知りになることでもない。単なる物知りとは、知っていても行動しない人のことだ。学ぶ力とは、教科書に書いてあることも、書いてないことも、自ら学んで自ら行動するための力である。

作家、吉川英治は「我以外皆師(われいがいみなし)」と言った。人は学ぶ気になれば、吹く風にすら人生の深淵(しんえん)をうかがう手掛かりを得る。空に浮かぶ雲であっても、そこから学ぶことはある。学ぶためには、時と場所も選ばず、状況も相手をも選ぶ必要はない。

本連載の最後に、私が学んできたことと、私の学び方を述べて、締めくくりとしたい。私が社会人になって最初に学んだことは、自分が話下手であるということだった。自分が何者であるかを学ぶことは、何よりも大きな意味を持つ。弱点を含め、自分自身を冷静に見ることができなければ、正しく学ぶことはできない。

大学を卒業してシェル石油(現・昭和シェル石油)に入社した私は、営業職に就いた。無論、それまで営業などやったことはない。まったく生れてはじめての経験である。この時私は、先輩たちの立て板に水の如きセールストークに驚いた。彼らに比べ、自分は明らかに話し下手だ。この事実を学んだ私は、話術のスキルを上げるためにアフターファイブに「デール・カーネギー 話し方教室」に通うことにした。

話し方教室で学んだことは、話術だけではない。同時に学んだことは、人生経験が豊かでない人には、人の心を打つような中身のある話はできないという真理だ。話し上手になるためには、話術が巧みであること以上に、深い教養と豊かな経験が必要である。深い教養と豊かな経験があって、物事に対する洞察力が生まれ、独自の見識も磨かれる。そうやって、はじめて言葉に重みが伴い、話に説得力がつくのである。当時の私の話がその域に達すまでには、あまりにも経験が足りなかった。

降格で組織の鉄則を学ぶ

失敗ほど貴重な教科書はない。失敗から得るものは多い。失敗から得られるものなど何もないという人は、それを自覚していないのだ。失敗から学ぼうとしない人は、せっかくの学ぶチャンスを自ら放棄している。失敗するということは“成功するためには、これをやってはいけない”ということを学ぶことだ。私も数多くの失敗から、その後の人生を決定づけるような大きな教訓をいくつも得ている。私のこれまでの人生でも、手痛い失敗はいくつかあるが、やはり印象深いのは若い頃の失敗である。

グループとは単なる人の群れである。集まった人が一つの目標を共有すると、そこにチームが生まれる。仕事はチームでやるものだ。チームで仕事をするうえで大事なことは何か。それは規律(Discipline)だ。チームで仕事をする以上は、チームの規律に従わなければならない。規律を守らなければ、チームはテンデバラバラとなり、成果を上げることは不可能だからだ。それがチームで仕事をするうえでの鉄則である。

では、規律とは何か。規律とは、どんなに意見が対立し、甲論乙駁(こうろんおつばく)の議論が沸騰しようとも、最後は上司、すなわちチームリーダーの意思決定に従うことだ。たとえ上司の判断が不十分であっても、そこで上司の意思に従わなければチームはまとまらない。烏合(うごう)の衆(しゅう)と化してしまう。私は、このチームの規律の重要さを、ある失敗によって痛感することとなる。私が新任課長のときのことであった。

私は、同期入社で最も早く課長になった。課長になって3カ月、私はある仕事の進め方で、上司である部長と意見が衝突した。私は、自分の判断に強い自信を持っていたので、チームが成果を上げるためにも、ここは譲るわけにはいかないと、とことん自分の意見にこだわった。最後の最後、これでもう決定という段になっても、なお自分の意見に固執し、上司の意思決定に従おうとしなったのである。その結果、私は課長から平社員に降格となった。組織にとって最重要なのは、チームの力を存分に発揮することである。それを妨げる行為は、チームのメンバーとしてイエローカード、あるいはレッドカードものである。チームの一員としての資格を失う。信賞必罰は組織の背骨だ。

降格はもちろんショックだったが、私はこの降格を反省の種として、チーム、すなわち組織の鉄則と組織の一員としての基本動作を身に染みて学んだ。

賢者は失敗から多くを学ぶ

私はこの時「意見を自由に述べることは正しい行動である、ただしそれは二度までであって、二度、上司に意見して聞き入れられなければ、そこで上司の意思に従うこと」を自分の中で不文律とした。この不文律は、その後、課長に再任されてから、自分自身のみならず部下の指導育成にも大いに役立った。

二度意見して聞き入れられなければ、上司の意見に従う。ただし、これは一般社員を含む組織の人間の基本ルールである。当時、課長であった私がとるべきだった態度は、上司の意見に素直に従うことではない。あたかも、上司の意見が自分の意見であったかのように、嬉々として、積極的に上司の意見に従って行動する。これがチームのリーダーを務める者の基本動作である。

私は降格後、だれよりも早く出社し、だれよりも明るく、積極的に仕事に取り組み、だれよりもチームに貢献した。そうして、降格の半年後に再び課長に任命されることになる。失敗が許されない文化の企業は伸びない。一回目の失敗は経験である。二回目の失敗は確認だ。三回失敗を繰り返すのは愚者である。

失敗から学ぶ人だけが、成功をつかむことのできる人だ。失敗は悔やむべきことではない。学ぶための機会なのだということを、心に刻むべきである。反省は学ぶために必要なプロセスだ。失敗は人を成長させる。

もうひとつ、私の失敗体験を紹介しよう。スキルだけでは、人はよろこんでついて来ないという苦い体験である。私は、30代でシェル石油から日本コカ・コーラにマーケティングの責任者として移った。この時の私は、仕事ではだれにも負けない自信と実績があった。仕事の知識も腕も、社内ではだれにも劣らないと自負していた。ところが、新しい職場の新しい部下たちの反応がなぜか冷たい。これまでには経験したことのなかったことだ。私は、自分に何が足りないのか大いに悩むこととなる。そうして、当時、私淑(ししゅく)していた大先輩に相談をした。

ご感想はこちら

「トップの力 ジョンソン・エンド・ジョンソンで学んだ経営の極意」 記事一覧

プロフィール

新 将命
新 将命

株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役社長。
1936年東京生まれ。早稲田大学卒。シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなどグローバル・エクセレント・カンパニー6社で社長職を3社、副社長職を1社経験。2003年から2011年7月まで住友商事株式会社のアドバイザリー・ボード・メンバー。2014年7月より株式会社ティーガイアの社外勤取締役を務める。
現在は長年の豊富な経験と実績をベースに、国内外で「リーダー人材育成」を使命に取り組んでいる、まさに「伝説の外資系トップ」と称される日本のビジネスリーダー。
代表的な著書に『他人力のリーダーシップ論』『仕事と人生を劇的に変える100の言葉』『経営者が絶対に「するべきこと」「してはいけないこと』(いずれもアルファポリス)などがある。

著書

自分と会社を成長させる7つの力

自分と会社を成長させる7つの力

ビジネスサイトで連載中の「トップの力」のが待望の書籍化!! 社長はもとより、組織の中間管理職まで、その役職に必要な要諦を解く。トップに必要な「力...
他人力のリーダーシップ論

他人力のリーダーシップ論

「あの人のために」と思われ、自発的に周囲の人や部下が動く。そんな人物こそが真のリーダーであり、まさに「他人力」を持った人物といえる。本書は、「他...
仕事と人生を劇的に変える100の言葉

仕事と人生を劇的に変える100の言葉

伝説の外資系トップである新氏が、自身の人生を振り返り、仕事と人生を成功に導くための100の言葉をベースとして、その経験からくる人生訓を説く1冊。
経営者が絶対に「するべきこと」「してはいけないこと」

経営者が絶対に「するべきこと」「してはいけないこと」

伝説の外資系トップが明かす、経営ノウハウの決定版。1つのテーマに対して「するべきこと」と「してはいけないこと」に分類し、50項目で経営の絶対的な...
出版をご希望の方へ