トップの力 ジョンソン・エンド・ジョンソンで学んだ経営の極意
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夢なき者に成功なし

今月は4月。多くの会社が新年度を迎え、新入社員も入ってくる。毎年この季節はフレッシュ感にあふれている。

新しい年度を迎えて、新しい目標も立てられていることだろう。そこで今回は「目標の力」について述べたいと思う。

「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし、ゆえに夢なき者に成功なし」(吉田松陰)。

夢のない人には成功は訪れない。至言(しげん)である。しかし、夢があるだけでは成功は約束されない。単なるビジョナリー(夢見る人)で終わってしまう。夢には「実現の法則」があるのだ。

夢を現実に変えるには、夢を目標に転換しなければいけない。目標には時限設定が付いていることが条件だ。「いつまでに」「何を」「どれだけやるか」という時限設定の付いた目標となって、夢は実現に向かって動き始める。すなわち、夢は目標となって、はじめて現実味を持つということになる。「夢なき者に成功なし」であるとともに、「目標なき者に成功なし」なのである。

目標の力とは、夢を現実にする力である。そもそも、目標とひと口に言っても、目標には長期の大きな目標と、短期に達成しなければならない目標がある。この2つの目標のバランスをとりながら、全社員を目標に向かってチャレンジさせ、達成に向かわせるのがトップの役割である。

長期と短期のバランスが大事

長期の目標とは、何年までに会社の業績、規模をどこまで伸ばし、市場におけるポジションをどこまで引き上げるかという、時間をかけて達成するという息の長い目標だ。一方、短期の目標とは、身近な例を挙げれば、年度目標、あるいは四半期目標、月間目標などである。長期の目標は、短期の目標を積み上げて達成されるものである。一方、短期の目標は長期の目標があって、その存在意義がある。長期目標を忘れた短期目標はなく、短期目標がなければ長期目標の実現はあり得ない。長期目標と短期目標は一体なのである。

トップの役割とは、この長短ふたつの目標をバランスよく立てることである。

トヨタ自動車の創業者、豊田喜一郎は、日本に「自分たちが作った、純国産の自動車を走らせること」を目標に会社を興した。戦前のことである。当時のトヨタにとっては、純国産の乗用車をつくることは長期目標だった。なぜならば、当時の日本には車をつくる技術がない、工作機械もない、さらに乗用車をつくっても、販売する市場がほとんどないという「3ない」状態だったからだ。

長期目標を実現するには、いくつもの短期の目標を達成し、一歩ずつ長期の目標に向かって歩を進めなければならない。富士登山で頂上を極めるためには、まず一合目からだ。短期目標は、第一にちゃんと走る車をつくることである。

創業期、喜一郎はアメリカから乗用車を購入した。この車を徹底的に研究することで、まずはちゃんと走る車をつくる技術を習得しようとしたのである。分解しては組み立て、分解しては組み立てを繰り返した。ボルト1本まで入念に研究し、同じ物をつくろうとしたが、形だけ同じでも、日米では製鉄技術が違う。どうしても同じ品質のものはつくれなかった。

心臓部であるエンジンは鋳物(いもの)でつくった。しかし、鋳物技術も日米には差があった。アメリカの自動車と同じものをつくるという、短期目標はなかなか日の目を見なかった。それでも苦心の末、なんとかちゃんと走る車をつくるまでに漕ぎ着けた。しかし、日本にはまだ自動車市場が形成されていない。

つくっても売れないのでは、つくる意味がない。だが、自動車市場が形成されるまでには、ちゃんと走る車をつくる以上の時間がかかる。そこで喜一郎は、自動車需要のある陸軍に目をつけた。軍用トラックの生産である。長期目標である国産の乗用車をつくるという目標のために、短期的には軍用のトラックをつくる。喜一郎は、長短の目標のバランスをとりつつ、着実にゴールに向かって走ったのである。

正しい目標はSMARTである

長期、短期の目標のバランスをとることは、トップがやるべき大事な役割のひとつである。しかし、これのみならず、トップがとるべきバランスにはもう1つある。それは、「会社が社員にやってほしい目標」と「社員がやりたい目標」を一致させることである。

会社がやってほしい目標と、社員のやりたい目標は往々にしてすれ違うものだが、目標達成にとって、社員の「やりたい感」のある・なしは、目標の達成率に大きく影響する。イヤイヤながら目標に取り組む「やらされ感」ばかりの社員が、目標達成に全力を尽くすということはまずあり得ない。

では、どうすれば社員に「やりたい感」をもって目標に取り組ませることができるのか。それは、目標自体が正しい目標であることに尽きる。正しい目標には、5つの条件がある。それは次の5つだ。

=Stretch(ストレッチ) ちょっと背伸びやジャンプで届くレベルに設定する。
=Manageable(マネジアブル) マネジメント可能な範囲に絞り込む。
=Accepted(アクセプト) 本人が心から納得している。
=Resource(リソース) 資源(ヒト・モノ・カネ・情報・時間等)の裏付けがある
=Time 期限(タイム) いつまでに、どこまでやるかを明示する

この5つの条件を備えた目標のことを、私は各言葉の頭文字から「SMART目標」と呼んでいる。目標は、すべからくSMARTでなくてはならない。

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プロフィール

新 将命
新 将命

株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役社長。
1936年東京生まれ。早稲田大学卒。シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなどグローバル・エクセレント・カンパニー6社で社長職を3社、副社長職を1社経験。2003年から2011年7月まで住友商事株式会社のアドバイザリー・ボード・メンバー。2014年7月より株式会社ティーガイアの社外勤取締役を務める。
現在は長年の豊富な経験と実績をベースに、国内外で「リーダー人材育成」を使命に取り組んでいる、まさに「伝説の外資系トップ」と称される日本のビジネスリーダー。
代表的な著書に『他人力のリーダーシップ論』『仕事と人生を劇的に変える100の言葉』『経営者が絶対に「するべきこと」「してはいけないこと』(いずれもアルファポリス)などがある。

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