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「達成したときのメリット」を意識する

そのポイントというのが、「達成したときのメリット」です。それを意識しているか意識していないかに、当時といまで大きな違いがあるのです。

先の失敗例から考えてみましょう。
格闘技の試合に出なくなって、私は20キロほど太ってしまいました。毎年、健康診断で太りすぎと指摘されるものの、検査で引っかかる項目はなく、ほぼオールAの結果が返ってきます。また、結婚して子どももいるので恋愛する機会もありません。ありがたいことに、妻は「太ってもやせてもどっちでもいい」と言ってくれます(興味がないだけかもしれません)。そうして強いモチベーションがないまま、健康診断のあと、一応やせたいと考えて減量を始めます。ですが、計画をたてて「今度こそ」とスタートするものの、いつも結果が出る前に続けられなくなります。
やせたい理由は「なんとなく健康になりたい」というふわっとしたものですし、やせて明確にいいことがあるわけでもないです。「絶対にやせなければならない」という動機がないため、心のどこかに甘えがあるのでしょう。
そんなわけで、「達成したときのメリット」はほとんど意識していません。

一方で、現役時代は試合のための減量には失敗したことがありませんでした。
もしも当日までに体重を落とせないと、そのまま失格になります。試合に出られないと、日ごろの練習の成果を試すことができないので、悔しい思いをします。
それだけでなく、格闘技には必ず相手がいます。アマチュアの格闘技では、対戦相手も仕事や家庭のスケジュールを調整し、合間をぬって練習や減量を行っています。失格になると準備した相手の機会を奪ってしまうことになり、大変な迷惑をかけます。
この場合、「達成したときのメリット」というより、できなかった際のデメリットが明確と言えるのですが、そのため必死になって努力できるのです。

私が腹をくくれた訳

独学の話に戻ります。私がしてきた経験ですと、1回挫折し、2回目は合格した公認会計士がわかりやすいと思います。

私は2004年に大学を卒業し、新聞記者になりました。仕事はそれなりに楽しかったものの、拘束時間が長かったことや、業務と自分のモラルがぶつかるケースがあったことが原因で、2007年に会社を辞めました。

新しい仕事を探すことにしたのですが、とくに何のプランもありませんでした。なぜ公認会計士試験の勉強を始めたのかもよく覚えていません。在職中に、「辞めた人は弁護士や公認会計士になるパターンが多いらしい」と聞いていたことがきっかけだったような気がします。難しい資格を取れば食いっぱぐれることはないだろう、くらいの考えでした。

専門学校のパンフレットを適当に取り寄せ、弁護士は向いてなさそうだから公認会計士にする、程度の考えで勉強を始めたように記憶しています。公認会計士がどのような仕事なのか、資格を取得できればどのように人生が変わるかなど、具体的なビジョンはまるでありませんでした。専門学校の勉強は、授業や課題が多く、サボると内容がわからなくなり、ついていくのが難しくなります。そのため、高い学費を払いながらも、試験までに脱落する人がけっこうな割合でいます。当時の私は、毎日の授業に出るのが日に日につらくなり、3か月が過ぎたころには学校に行けなくなりました。あとには、大量の開いていない教科書だけが残りました。

それから6年が過ぎた2013年、私は上場企業の経理部で働いていました。主な仕事は、四半期ごとに決算を行い、発表資料を作成することです。資料には、損益計算書や貸借対照表などの財務諸表が含まれます。実務上、それらの資料は発表前に監査法人のチェックを受けることになっています。監査法人とは、公認会計士で構成する法人です。財務諸表を監査することが主な業務になります。日常的に公認会計士と接することが多くなり、雑談をする時間もあったため、彼らの業務内容や給与水準、キャリアパスなどを自然に理解するようになりました。資格を得ると、年収1000万円を得るのは簡単で、独立や転職も思うままにできそうな印象です。挫折した当時と比べ、公認会計士はとても魅力的に見えました。とくに、「独立」という言葉が心に刺さりました。

新聞社を辞めて、最初は化学メーカーに就職し、1年半で海運会社に転職しました。2013年は、海運会社に入社して4年が過ぎていました。
どちらの会社でも、上司との相性が合わず、とても苦労しました。
最初の化学メーカーの会社では、所属部署の課長は勤続40年のたたき上げでした。とても真面目で知識はあったものの、部下を徹底的に管理したいタイプの人でした。毎日のように細かい指導と突然のチェックが入り、心の休まる暇がありません。仕事は楽しく環境も良かったものの、次第に仕事に向かうのが憂鬱になり、気づけば転職サイトに登録していました。
次の海運会社に採用され、出社した最初の日はよく覚えています。配属された経理部に向かうと、辞めた会社の上司とよく似た顔つきの人がいます。その人が直属の上司と聞いた瞬間に、頭がくらくらしました。直感的に、同じタイプの人間だと確信したからです。
そして、転職前と同じ苦しみを抱えることになりました。さらに、入社してから会社の業績は右肩下がりです。借入金と赤字の額が決算ごとに増えていき、会社の将来に大きな不安を抱えました。
当時は35歳転職限界説が広く信じられていました。30歳を迎えた私にとって、サラリーマンとして残されたチャンスはあまり多くありません。人生を保証してくれるものは何もなく、先はまったく見えない状態でした。
だからこそ失敗できないと腹をくくれたのです。

メリットを意識して「自らを誘惑」する

公認会計士の2回目の受験を決意したとき、1回目と大きく違っていたのは受かったあとのビジョンです。
合格すれば、合わない上司と働く必要もなく、年収は上がり、社会的なステータスが得られます。さらに、会社の倒産に怯えることなく、人生を安定させることもできます。
これらを理解し、自分の中で「達成したときのメリット」を明確化できたことが、私が独学を達成できた要因なのです。

たとえば、何のリターンもなく、「1か月で10キロやせろ」といわれても無理でしょう。しかし、「1000万円もらえる」とか、「好きなアイドルと付き合える」などの条件があるなら、誰だって目の色が変わるはずです。
繰り返しになりますが、人間の意志は弱いものです。遊びやお菓子などの誘惑は魅力的ですし、どうしても楽なほうに進んでしまうでしょう。誘惑に強い意志で勝とうとするのは、特別な人間を除いて無理です。
だからこそ、「達成したときのメリット」を明確に意識するのです。そうして、意志の力で誘惑に耐えるのではなく、「達成したときのメリット」に自らを誘惑するようにして、努力に向かわせる必要があるのです。

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プロフィール

石動龍
石動龍

青森県八戸市在住。公認会計士、税理士、司法書士、行政書士。読売新聞社記者などを経て、働きながら独学で司法書士試験、公認会計士試験に合格。石動総合会計法務事務所代表。ドラゴンラーメン(八戸市)元店長、ワイン専門店vin+共同オーナー、十和田子ども食堂ボランティアとしても活動している。趣味はブラジリアン柔術(黒帯)と煮干しラーメンの研究。

著書

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石動龍 /
キャリアアップ、資格試験、公務員試験、TOEIC、リスキリングなどにおいて、予備...
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