リーダーシップの身につけ方

リーダーに求められるものとは-3

2016.02.08 公式 リーダーシップの身につけ方 第9回

やって後悔すれば「学び」が生まれる

5. 前向きなチャレンジなら、やってみる

意思決定は、リーダーの重要な仕事です。もっとも大切な仕事といっていいかもしれません。行き先をどこにするのか? 右へ行くのか、左へ行くのか? 新規投資をするのか、しないのか? 値下げ要求を受けるのか、受けないのか? どんな人を採用して、誰を昇格させるべきか? などなど、毎日の仕事で数多くの判断と意思決定を迫られます。

意思決定する際、私が心がけていたのは、「前向きなチャレンジであれば、やってみる」ということでした。なぜなら、たとえ失敗しても、その経験から学ぶものがあると考えたからです。人生においても「やらなかった後悔」と、「やったうえでの後悔」を比較したとき、後者のほうが遥かにプラスになります。「やらなかった後悔」は一生続きますが、やった後悔は一時的だからです。 やらなければ金がかからない。手間もいらない。失敗もない。確かにその通りですが、これではチャレンジ精神あふれる組織風土は生まれません。そのためリーダーは前向きな失敗は容認するようにしなければなりません。もし厳しく叱責すると、メンバーは新しい提案をしなくなり、チームの活力は失われていきます。

ただし、失敗したときの損失が許容範囲を越え、会社の屋台骨を揺るがすような、リスクが大きいチャレンジは、するべきではないと思います。会社の基盤がしっかりすればするほど、取れるリスクも大きくなってきます。リーダーは、どこまでの損失なら耐えられるかを念頭に置いたうえで、失敗を恐れず挑戦するべきです。

「謙虚さ」がリーダーに必要な人間性

6. 優柔不断も朝令暮改も恐れるな

通常、危機的状況では、リーダーの意思決定にはスピードが要求されます。しかし、もし時間が許されるのなら、十分な情報がないままに即断即決するのは危険です。自信を持って意思決定する自信が持てないときは、決定のタイミングを先延ばしにする。つまり、「今は決定しない」という意思決定をすることも必要です。そして、意思決定すべき期限を確認し、判断に必要な事実(=一次情報)をできるだけ多く集めます。納得がいくまで事実を集め続け、最後の最後まで粘って、腹を決めるのです。その方が集まる情報が多く、正しい意思決定ができる確率が増すのです。

情報を集める時間があまりにもないとき、私はその状況を一番分かっていて、かつ信用できる人に、直接聞きに行くことにしていました。「あなたはどのように考えるのか。責任は私が取るから、あなたの意見を聞かせてほしい」と単刀直入に尋ねました。現場の直接の担当者のところには、「本当は何が起きているのか」「なぜそうなったのか」という事実が集まっています。そうして事実を集めていくと、場合によっては判断が変わることがあります。「朝令暮改」といわれることを恐れてはいけません。大切なのは、いかに正しい意思決定をするかということなのです。

7.「人間力」がなければメンバーはついてこない

リーダーとしての役職が上がっていくと、権限も大きくなってきます。使えるお金が増え、部下が増え、組織に与える影響力は増していきます。

ここで問われるのは人間性です。人は権力にすり寄ってきます。いろいろな誘惑を退け、不正な行いを避ける勇気、人間として正しい良心を持ち続けられるかどうかが問われます。自分の役職が上がったからといって、自分自身が偉くなったような勘違いをしてはなりません。役職が上がるということは、責任が大きくなることです。それに対して「畏(おそ)れ」を持たなければなりません。リーダーの行動は、たくさんの人が見ています。

「いま自分がやろうとしていることを、自分の子供に話せるかどうか?」

こういったことを、常に自分に問い続けなればなりません。

人間性は、日頃の言動の中にも出てきます。例えば、人間性の高い人は決して悪口や自慢話はしません。会社や人の悪口は、聞いていて気持ちのよいものではありません。悪口を聞いている人は、「この人は他のところできっと自分の悪口を言っているだろう」と思うでしょう。
自慢話も同様です。自分の体験を謙虚な気持ちで淡々と事実を語る場合には、人生の教訓として受け止められることもあります。しかし、「どうだ、すごいだろう」という意識があからさまに見えると、聞いている方はうんざりします。リーダーとして実績を上げていれば、自ずと必ず誰かが見ています。自慢話などする必要はありません。自分はまだまだという謙虚さを、リーダーは偉くなっても持ち続けなければなりません。

(次回に続く)

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プロフィール

岩田松雄
岩田松雄

1958年生まれ。大阪大学経済学部卒業後、日産自動車株式会社に入社。同社にて幅広い業務を経験後、米国UCLAアンダーソンスクールに留学。その後、外資系コンサルティング会社ジェミニ・コンサルティング・ジャパン、日本コカ・コーラ株式会社役員を経て、株式会社アトラス(ゲーム会社)の代表取締役として、三期連続赤字の企業を再建。さらに株式会社タカラ常務取締役を経て株式会社イオンフォレスト(ザ・ボディショップ)の代表取締役に就任。店舗数を一気に増加させ、売上を67億円から約140億円に拡大。そしてスターバックスコーヒージャパン株式会社のCEOとして「100年後も光輝くブランド」というコンセプトを掲げ、業績を急回復させ再成長させる。これらの功績が認められ、UCLAビジネススクールより全卒業生3万7000人の中から「100 Inspirational Alumni」
('92年卒業生ではただ一人)に選出される。
現在は株式会社リーダーシップ・コンサルティングの代表取締役CEOであり、次世代のリーダー育成に注力する傍らで、立教大学の特任教授として教鞭もとっている。主に「リーダーシップ」に関するテーマにてこれまで著書は30万部を超える『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』はじめ多数。「リーダーシップ」に関する日本の第一人者として日本のビジネス界を牽引する人物である。
HP: http://leadership.jpn.com
Facebook: https://www.facebook.com/Leadership.jpn?pnref=lhc

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