真中流マネジメント

真中流「監督としてのメンタリティ」

2017.04.28 公式 真中流マネジメント 第26回

正しい判断をするためにアンガーマネジメントが重要

部下たちから注目されるからこそ、
トップは感情表現に細心の注意を

開幕から一ヵ月が経過しました。残念ながら、チームはスタートダッシュにつまずきましたが、キャンプで重点的に取り組んだ投手陣の整備にも一定の成果が見えており、これからチーム一丸となって巻き返しを図っていこうと思っています。

そのうえで大切なのは、まず監督がチームの好不調に左右されないことだと私は考えます。とくに意識しているのは「感情のコントロール」です。私も人間ですから、当然、目の前の試合に一喜一憂します。勝てば嬉しいし、負ければ悔しい。しかし、選手たちは常に監督の姿を見ています。指揮官である私が、一つのプレーに、いちいち喜んだり、悔しがったり、落ち込んだりすることは、選手たちの士気にも大きく影響します。

就任当初は、チームの雰囲気を明るくするためにも、「いいプレーをしたときには、感情を出してもいいのではないか?」と考えたこともありましたが、結局は抑えるようになりました。というのも、たとえば山田哲人がホームランを打ったときに、私が大喜びをしてハイタッチをしたとします。でも、その次の打席で彼が凡打に終わったとしたら、私はどんなリアクションをすればいいのでしょうか? そんなことを考えたら、「嬉しいときも、腹が立ったときも、なるべく感情を表に出すのはやめよう」という結論に達しました。

心理療法プログラムの一環として「アンガーマネジメント」という考え方があります。要は「怒りの感情を自分自身でマネジメントする」といった考え方で、「怒り」を上手に解消させることに大いに役立ちます。本音を言えば、試合中に机を蹴り飛ばしたくなる瞬間は、私にもあります(笑)。でも、そのときに10秒間ぐらいグッと我慢すると、少しスッキリするし、少なくとも「机を蹴りたい」という負の衝動は解消されます。

現役時代、「アンガーマネジメント」という言葉は知りませんでしたが、気持ちを切り替えるためにしばらくの間、別のことを考えるということはやっていました。なぜなら、スポーツ選手にとって、いや、これは一般のビジネスマンにとっても同様だと思いますが、冷静さを失ってしまうと、決していい判断はできないからです。我を忘れてカッとしたまま行動しても、いい結果が出ることはまずありません。結局、後悔するのは自分なのです。こうした考え方は、私は読書を通じて、身につけていきました。

元々、読書は好きだったのですが、監督に就任してからはビジネス書を含めて、いろいろな本を読むようにしています。そして、気になる部分があれば、「今度のミーティングで話してみようかな」と、その箇所をメモしています。読書の際に心がけていることは、書かれていることをそのまま受け止めるのではなく、疑いの視点を持ちながら読み進めることです。自己啓発書などでも自分とは真逆の考え方が語られている本をあえて選び、それまで自分の中になかった新しい視点を手に入れられるよう意識しています。シーズンが始まると、なかなかゆっくりと読書をする時間は取れませんが、それでも移動中は、気になる本を片手に過ごすつもりです。

少し話が逸れましたが、監督という組織のトップにいる以上、その一挙手一投足がチームの空気に多かれ少なかれ影響をおよぼす可能性があります。ですから、なるべく自分の感情をコントロールしながら、適切なタイミングで適切に言葉を選び、一時の感情だけで動かないよう心がけています。

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プロフィール

真中満
真中満

1971年栃木県大田原市出身、宇都宮学園高等学校を経て日本大学卒業後1992年にドラフト3位で東京ヤクルトスワローズに入団。
2001年は打率3割を超えリーグ優勝、日本一に貢献。2008年現役を引退。
2015年東京ヤクルトスワローズ監督就任1年目にして2年連続最下位だったチームをセ・リーグ優勝に導く。
2017年シーズン最終戦をもって監督を退任。

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