真中流マネジメント

伊藤智仁投手コーチが語る真中ヤクルト①
~燕伝説の投手が、監督とともにやってきた投手改革~

2017.06.23 公式 真中流マネジメント 第30回
自分の意見を言う際には「根拠のある提案」を!

ここまで述べてきたように、監督とのコミュニケーションは円滑に進んでいますが、お互いの率直な思いをぶつけ合うわけですから、ときには意見がぶつかることもあります。その際に、僕が意識しているのは「根拠のある提案をする」ということです。

監督の意見や提案に対して、間違っていると思えば、「ノー」ということもコーチの役割です。その際に感覚でものを言ったり、感情的に判断してしまったりしては、何ら建設的な議論を進めることはできません。だからこそ、提案には根拠が必要なのです。

たとえば、プロ2年目を迎えた原樹理という投手がいます。僕は彼自身にすごく期待していて、開幕前には先発候補の一人として考えていました。しかし、一軍の先発ローテーションに入って、相手打線と対峙するには少しだけ何かが足りない。そこで僕は、彼を二軍に落とさずに中継ぎとして一軍に帯同させることを監督に提案しました。

シーズン開幕後、原樹理は中継ぎで結果を残していく中で、ようやく「先発でも使える」という手応えを得ました。故障者が続出して、先発投手陣のやりくりが厳しくなってきた頃、僕は監督に「原樹理先発」を提案しました。監督としても不安はあったかもしれません。でも、このときに僕は「どうして原樹理なのか?」ということを具体的に提示しました。

彼はとても身体が丈夫であること。中継ぎで投げ続けたことによって、マウンド度胸がついたこと。シュートの効果的な使い方を覚えたことなど、多くの根拠を示しました。その結果、監督は「原で行こう!」と決断してくれました。そして今では見事な完投勝利を挙げる活躍を見せてくれています。

今年の開幕投手に、若きエース・小川泰弘ではなく、ベテランの石川雅規を指名したのも僕からの提案がきっかけでした。このときにも、「どうして石川なのか?」ということを、監督とは徹底的に議論しました。最終的な決断は、もちろん監督がします。それでも、決断する際の判断材料となるさまざまな意見、考えはコーチとしてたくさん提示すること。そして、自分の意見を言う際には、必ず根拠を持って伝えることが大切です。

これが、監督と選手とのパイプ役であるコーチという立場である僕が心がけている最も大きなことです。では、具体的に選手たちとはどのように接しているのか? 次回は選手たちとのコミュニケーションについてお話したいと思います。

取材協力:長谷川晶一

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プロフィール

真中満
真中満

1971年栃木県大田原市出身、宇都宮学園高等学校を経て日本大学卒業後1992年にドラフト3位で東京ヤクルトスワローズに入団。
2001年は打率3割を超えリーグ優勝、日本一に貢献。2008年現役を引退。
2015年東京ヤクルトスワローズ監督就任1年目にして2年連続最下位だったチームをセ・リーグ優勝に導く。
2017年シーズン最終戦をもって監督を退任。

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