真中流マネジメント

宮出隆自打撃コーチが語る真中ヤクルト①
自主性と感性を重視した選手作り

2017.08.25 公式 真中流マネジメント 第34回

口出しするよりも、まずは見守りながら、
「いいときの状態」をよみがえらせる

一方で、一軍コーチとしてレギュラークラスの選手を相手にするときは、少し接し方が変わります。レギュラークラスともなれば、実力や精神力、責任感や自主性もすでにある程度のレベルにまで達しています。ですから、指導をするというよりは、「選手のいいときの状態をしっかりと把握すること」が僕の重要な役割になってきます。長いペナントレースでは好調時もあれば、不振時もあります。夏場の連戦などで疲れが溜まってくると、どうしても打撃フォームに小さなズレが生じてきます。それは本人ではなかなか気づきにくいものです。だからこそ、コーチとして、「いいときと比べると、少しだけ右肩が下がっているぞ」とか、「以前よりも、ちょっと始動が遅くなっているぞ」などとアドバイスをすることが必要です。

現状では一軍に16人程度の野手が登録されています。この16人全員の「いい状態、いい打撃フォーム」を、自分の頭の中にきちんと記憶した上で、各選手の状態を見極め、何か問題点や変化などがあれば、そこを指摘するようにしています。あれこれと口出しするのではなく、まずは見守ること。寄り添うように接しながら、それぞれの選手の「いい状態」へと導いていくのが僕の役目ではないかと考えています。

もっとも、一軍の中にも、控えに甘んじている若手やなかなかレギュラーに定着しない選手、「伸び盛りの今こそ鍛えなければならない」「伸び悩んでいる今だからこそ特打ちが必要だ」といった時期にある選手もいます。そういった次代のヤクルトを担うべき選手たちには、時に厳しく接するときもありますし、つきっきりで指導することも厭いません。

例えば現在、入団11年目を迎えた上田剛史は毎日昼から早出特打ちを行っています。これはコーチに命じられて行っているのではなく、自ら志願してのものです。やはり、コーチとしてはその気持ちを尊重してあげたいし、こういう気持ちがあるときこそ、現状打破のチャンスでもあるので、応援したいと思っています。ただ、特定の一人につきっきりでずっと指導するわけにもいきませんから、そのあたりはえこひいきにならないようバランスを見ながら接するように心がけています。

「感性」を磨くことの大切さ
野球以外に興味を持ち、多角的に考えること

先ほど、「自発性が大切だ」と述べましたが、自ら考えることでそこに創意工夫が生まれます。創意工夫があれば、練習への取り組み方も熱意も変わってきます。このとき、感性がとても重要になってきます。二軍コーチ時代には、口が酸っぱくなるほど「感性を磨け」と言ってきましたし、その考えは今でも変わりません。では、感性はどのように磨けばいいのでしょうか? 残念ながら一気に感性を磨く早道はありません。いろいろなことに興味や好奇心を持って、自分が関心を持ったこと、疑問に思ったことを突き詰めて考えていくこと。それしか方法はないと思います。

感性が磨かれると、それは打席においても役に立ちます。打席に入ったとき、投手の様子を見て、あるいは捕手の姿を見て、「自分にはこのように攻めてくるだろう」とふとひらめくことがあります。それはデータや配球に基づくものとはまた違った重要なポイントです。あるいは初球を見た段階で、「次にこのボールを投げてくるだろう」と感じることもしばしばあります。すでに2年連続でトリプルスリーに輝いた山田哲人などは、一瞬にして何かを感じる能力が長けていると、僕は思っています。

つまり、僕が選手たちに求めるのは、自ら積極的に課題に取り組む「自主性」、そして物事を深く、さらに多面的に考えることで身につく「感性」。この二つを身につけてほしいと願っています。そこに、成長と飛躍のきっかけが転がっているのだと、僕は考えています。次回は、真中監督について、そして一塁ベースコーチの仕事について詳しくお話ししたいと思います。

取材協力:長谷川晶一

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プロフィール

真中満
真中満

1971年栃木県大田原市出身、宇都宮学園高等学校を経て日本大学卒業後1992年にドラフト3位で東京ヤクルトスワローズに入団。
2001年は打率3割を超えリーグ優勝、日本一に貢献。2008年現役を引退。
2015年東京ヤクルトスワローズ監督就任1年目にして2年連続最下位だったチームをセ・リーグ優勝に導く。
2017年シーズン最終戦をもって監督を退任。

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