真中流マネジメント

コーチが陥りやすい“自分よがり”
〜指導者は選手目線に立つことが大切〜

2016.05.13 公式 真中流マネジメント 第4回

常に選手の目線で考えるのが真中スタイル

誰に、どんなタイミングで、何を伝えるかが大事。
加えて、どうやって伝えるかという点でも工夫が必要になる。

第3回では、No.2という存在が組織にどのような影響を与えるのか、そして、監督とコーチが活発に意見交換しながら、チームのビジョンを共有していくことが勝つためのチーム作りにおいて重要だとお話ししました。
今回はそこからさらに一歩踏み込んで、監督とビジョンを共有したコーチが、次に選手とどうやってコミュニケーションをとっていくかについて考えてみたいと思います。

技術を指導するにも、褒めるにも叱るにも、選手に対してどのように、どんなタイミングで伝えるべきか、この「伝え方」はかなり難しいです。というか、考えて行動しなくてはならないと思うんです。
私がそういった場面でまず意識するのは、自分が選手のときにどう思ったかということを思い出し、選手目線に立つことです。

私が選手時代に、外野の守備から帰ってきてすぐに先頭バッターで打席に立つという機会がありました。外野から走ってきて息も上がっている中で、早く準備をしなきゃいけない。その中で、次の打席のことを色々と考えていますよね。そういうときに、コーチに守備の話をされたことがあるんです。
「あそこの場面は、展開を考えて守備位置をもっと前にとった方がいい」
コーチがアドバイスしたくなる気持ちも分かるんですが、私としては打席に集中したかった。そのとき正直、なんでコーチは今このタイミングで指導してくるのだろうと思いました。

チーム全体のことを考えると、その打席で塁に出ることの方が大切です。忘れがちですが、試合に出てプレーするのは選手です。常に選手優先なんだということを意識しておかなければいけません。

今伝えておきたいというコーチの気持ちもわかります。コーチだってそのことを早くアドバイスして先に進みたいですからね。しかし、いつだって選手優先です。打席が終わってからでも、指導はできるんですから。コーチとしての仕事に集中するほど、選手の立場というものをつい忘れてしまいがちになります。でも伝えるタイミングを間違えてしまうと、それは結果的に選手の士気を下げることにつながると思うんです。

そういえば、私が選手のときにかけられた言葉で、すごく楽になったこともありました。それは、野村監督にかけられた言葉です。日本シリーズの第2戦グリーンスタジアム神戸で試合をした際に、終盤で同点という場面で私のところにフライが飛んできたんです。そのとき、照明が目に入ってボールを見失い、致命的なランナーを出してしまいました。
幸いそのランナーから失点に結びつくことはなかったのですが、さすがに動揺しました。ベンチに帰って暗い顔していたんでしょうね。野村監督が、

「おぅ、照明が目に入ったんだろ。気にすんな。切り替えてバッティング頑張れ」
と言ってくれたんです。

野村監督が普段そうやって選手を励ますことはまずありませんでしたから、この言葉は本当に私を楽にしてくれました。私の暗い雰囲気を読み取って声をかけてくれたのだと思いますが、こういうタイミングで声をかけられると、すごく効果的ですよね。ちなみに、野村さんは基本的には褒めたり励ましたりしてくれません。基本的にキツイ要求しかしてきませんでした。割合でいうと、9:1くらいでキツイ方です(笑)。それでもときおり、絶妙なタイミングでこうやって力づけてくれるんです。

誰に、どんなタイミングで、何を伝えるかが大事だということもそうですが、加えて、どうやって伝えるかという点でも工夫しています。
例えば、あえて直接伝えないというやり方があります。場合によっては、
「いつも頑張ってるな」
と、直接伝えるよりも
「“最近頑張ってるな”って、監督が言ってたぞ」
と、私じゃないコーチが言った方が相手に伝わるということもあります。そうやって伝えた方がいいんじゃないか、と判断したときには、実際にコーチにお願いして伝えてもらうようにしています。

また、コミュニケーションには必ずしも言葉は必要ありません。打たれてしまったピッチャーに、
「気にせず頑張れ」
と声をかけるよりも、ケツをポンと叩くだけの方が効果的な場合もあります。何が正解かは分かりませんし、そもそも正解はありません。ただ、自分が伝えたいことを優先するのではなく、個々の性格やそのときの調子などに目を配りながら、常に選手の立場に立って会話をすることが大切なんだと思います。それを心がけるだけで、随分と相手への伝わり方が変わるということです。

コーチも監督も大切なのは「選手との距離感」

コーチは一喜一憂せずに、いいときも悪いときも
ひたすらその選手の成長に向き合うという姿勢が大切

選手の立場に立つという流れでは、私も選手からコーチになった身です。最初は、選手としての考え方からコーチという立場での考え方に移行するのに苦労しました。
私が最初に意識したのは、「距離をとる」ということです。私自身、現役時代はムードメーカーといったポジションで、積極的に冗談を言ってみたり、みんなを盛り上げる役をやったりしていまたし、そういうことが好きでした。宴会部長でしたね(笑)。
しかし、コーチになっても同じようにおちゃらけていたら、こっちの言うことをどうしても聞き入れにくくなってしまいます。もちろん、同世代の選手でずっとやってきていた選手には通常通り会話をしていましたが、若い選手とのコミュニケーションは意図的に距離を置いていました。見方によってはツンツンしていたかもしれませんが、これもチームのためです。自分がどうしたいかより、コーチとしての仕事を優先させるということです。

次にコーチとして心掛けたことは、「一喜一憂しない」ことです。自分の見ている選手が試合で活躍すると、それはものすごく嬉しいです。ですが、自分がプレーしているわけではありません。活躍するかしないかのコントロールはできないんですね。当然、結果が出ないときもあります。目の前の結果ばかり見てしまうと、活躍したときに喜んで、そうでないときには悔しいという顔をしてしまいます。コーチは一喜一憂せずに、いいときも悪いときも、ひたすらその選手の成長と向き合うという姿勢が大切だと思います。

この、向き合うという姿勢は選手時代にはない考え方でしょう。選手時代は自分が活躍すればいいという考え方ですから、常にギラギラしていられます。しかし、コーチになると、特に若い選手などは結果に結びつくまでに時間がかかります。その期間、「待つ」ということができるかどうか。これは、コーチになってみないと分からない、大切な能力です。

選手からコーチになる上での最後のポイントは、「自分の価値観を手放す」ということです。コーチになる人というのは、選手時代にある程度の成績を残しています。ですから、2軍の若い選手を見ると、「俺の方がまだできるんじゃないか」と思ってしまいます。そういう目で選手を見ると、どうしても指導が傲慢になります。

自分はできると思っていますし、場合によっては自分の方がうまいと思ってしまうことだってあるでしょう。そうすると、「なんでできないんだ」という言葉も出てきますよね。こういう指導になってしまうと、選手はコーチに教えてもらいづらくなります。そうではなく、「自分は現役を終えた人間」ということを受け入れて、自分の価値観を手放すことが大事です。そうすると、選手といい距離感を保つことができ、どうやったらこの選手が成長していくかということを考えられるようになると思うんです。
そしてもうひとつ、各選手への期待をきちんと言葉にすることです。

「俺はお前にこんな選手になってもらいたいと思っている」

と、自分がその選手に期待していること、また、チームがその選手に期待していることなどの育成方針を示し、それについてなるべく言葉を尽くすようにしています。もちろん、選手自身がなりたい像がありますし、いつも意図を共有できるわけではありません。それでも、話し合ううちにお互いのやりたいことが擦り合わされていきますね。それが、信頼関係につながっていくと思います。

あとはその選手が結果を出すまで一喜一憂せず、適度な距離を保って、「待つ」。こうやって、元選手はコーチへと変わっていくわけです。

取材協力:高森勇旗

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プロフィール

真中満
真中満

1971年栃木県大田原市出身、宇都宮学園高等学校を経て日本大学卒業後1992年にドラフト3位で東京ヤクルトスワローズに入団。
2001年は打率3割を超えリーグ優勝、日本一に貢献。2008年現役を引退。
2015年東京ヤクルトスワローズ監督就任1年目にして2年連続最下位だったチームをセ・リーグ優勝に導く。
2017年シーズン最終戦をもって監督を退任。

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