ビジネス書業界の裏話

「著者買いはありますか?」と編集者に聞かれた時の答え方

2018.01.25 公式 ビジネス書業界の裏話 第47回
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著者買いにはふたつの意味がある

著者買いとは、作家自身が何らかの目的のために自分で自分の本を購入することだ。自分のクライアントに贈呈する。あるいは自分のセミナーで販売するなどなど、ビジネス書作家の場合、多くは作家自身の仕事の販促に使うために自分の本を買っている。

著者買いの場合、定価の80%(いわゆる著者価格)が一般的である。ただ、会社によっては著者が購入する場合も、定価で販売するというところもあると聞いているので、一律に著者価格イコール定価の80%とは言えないようだ。作家に編集者から「著者買いは何部くらいありますか?」と尋ねることがある。タイミングはふたつだ。ひとつは校了直後。あとは印刷屋さんに回すだけ、やれやれひと息ついた、というタイミングである。もうひとつは、企画の打合せをしているときがそうだ。

前者の場合は、初版の刷り部数を印刷所に告げる必要上、もし作家のほうでまとまった部数を使うというのであれば、それをあらかじめ初版の印刷部数に載せておくためである。発行してから2000部、3000部必要と言われても、配本直後ではそれだけの部数が手元にないこともあるため、作家が使う(購入する)分を見込んで余分に本をつくっておくのである。したがって、前者にあっては、編集者の「著者買いは何部くらいありますか?」という問いに対し率直に必要部数を申告すればよい。少し多めに申告したほうがよいのだろうか、などと考えるのは要らざる忖度というものである。

著者買いも売上には違いないので、数が多ければ、もちろん編集者にとってもありがたいことだが、無理に部数を増やそうとするには及ばない。このタイミングの問いかけは、あくまでも刷り部数の確認であり、著者買いはお中元、お歳暮と同様のしょせん「気は心」の世界である。だが、後者の場合は、前者とはかなり異なった意味合いを持つことがある。

企画の打ち合わせ段階で「著者買いは何部くらいありますか?」と聞いてくるときは、その部数によっては企画がオーソライズされるか、流れるかを分けることもあるからだ。「著者買いの部数によって出版するか否かを決定します」と露骨に言う編集者はほぼいないだろうが、企画段階でこの問いを発するときには、内心ではそれも含んでいることが少なくない。無論、企画として十分魅力的で、著者買いがあろうとなかろうと出版するつもりという時でも、上記の問いはある。あってもなくてもよいが、一応聞いておこうという習慣を持つ編集者も、少ないながら存在するからだ。

さて、問題は企画が当落線上にあるとき、著者買いの部数が、出版の成否にどれだけ影響を及ばすかである。

1000部はないよりはまし
500部はないのと同じ

ビジネス書の出版では、新人作家の場合、ほとんど企画段階で著者買いの部数を尋ねられるはずだ。実用書の出版社だと、企画段階で著者買いの部数を尋ねられることは稀で、大半は校了後に必要部数を訪ねる程度である。文芸書の出版社のことはよく知らない。この著者買い部数を尋ねるのは、実は編集者にとってもストレスである。著者買いの部数を聞くというのは、著者の負担する金額(部数)によって出版を決めているようで(実際決めていることも多い)、編集者としては何だか後ろめたい、あるいはかっこ悪いと内心思っている。

私でも、その点に話が及ぶと、いまでもかなり言葉を選んでしまう。編集者の内心の葛藤はどうであれ、聞かれた以上は作家も何か答えなければならない。では、編集者はどれくらいの著者買い部数を期待しているのか。

もし、作家から著者買いを500部予定していますという返事をもらった場合、編集者は余計なことを考えず、純粋に作家の実力と企画内容を吟味して結論を出そうとする。500部という数字は、あってもなくてもよい。あるいは、あってもないようなものだからである。500部の買い取りは、企画の成否にはほぼ影響を及ぼさない。もし、著者買い500部と言って企画が通ったのなら、それは純粋に企画がよかったからだ。500部以下という数字は、著者買いはありませんという答えとほぼ同じ意味なのである。

では、すこし数字を飛ばして3000部ならどうか。現状で3000部の買取りがある企画ならば、よほど見当外れな企画でない限り、概ね出版は実現するだろう。ビジネス書の出版社が相手なら、9割方とんとん拍子で話が進む。3000部というのは、そのくらいの威力がある数字といえる。

では1000部ならどうか。1000部の著者買いというのは、あればあったほうがよい数字だ。だが、それだけあれば多少のことには目をつむって、というほどの数字ではない。出版の成否に及ぼす影響としてはどうかと言うと、作家のキャリア、テーマ性は一定のレベルを超えてはいるが、いまこの作家でこのテーマなら間違いなく読者をつかめる、という確信まではいかない。さあ、どうするかと迷った時に、「ああ、1000部の著者買いがあるのか、それなら……」という最後のひと押しにはなるのが1000部という数字だ。著者買い1000部の影響とは、だいたいこの程度のものだろう。

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プロフィール

ミスターX
ミスターX

ビジネス雑誌出版社、および大手ビジネス書出版社での編集者を経て、現在はフリーの出版プロデューサー。出版社在職中の25年間で500人以上の新人作家を発掘し、800人を超える企業経営者と人脈をつくった実績を持つ。発掘した新人作家のうち、デビュー作が5万部を超えた著者は30人以上、10万部を超えた著者は10人以上、そのほかにも発掘した多くの著者が、現在でもビジネス書籍の第一線で活躍中である。
ビジネス書出版界の全盛期となった時代から現在に至るまで、長くビジネス書づくりに携わってきた経験から、「ビジネス書とは不変の法則を、その時代時代の衣装でくるんで表現するもの」という鉄則が身に染みている。
出版プロデューサーとして独立後は、ビジネス書以外にもジャンルを広げ文芸書、学習参考書を除く多種多様な分野で書籍の出版を手がけ、新人作家のデビュー作、過去に出版実績のある作家の再デビュー作などをプロデュースしている。
また独立後、数10社の大手・中堅出版社からの仕事の依頼を受ける過程で、各社で微妙に異なる企画オーソライズのプロセスや制作スタイル、営業手法などに触れ、改めて出版界の奥の深さを知る。そして、それとともに作家と出版社の相性を考慮したプロデュースを心がけるようになった経緯も。
出版プロデューサーとしての企画の実現率は3割を超え、重版率に至っては5割をキープしているという、伝説のビジネス書編集者である。

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