話しやすい人になれば人生が変わる

ムカつくことを言われたときの「大人の対処法」の正解

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気持ちが波立ったときは、思考をめぐらせ、冷静さを取り戻す

会話中に感じた怒りや不快感を鎮める方法として、ほかに有効なのが、思考を巡らせることです。

すでにお伝えしたように、怒りを感じると、扁桃体の働きが活発化し、前頭前野の働きが低下して、冷静さを失い、判断能力が低下してしまいますが、思考を巡らせることによって、逆に前頭前野の働きが活発化し、扁桃体の働きが低下して、冷静さを取り戻すことができます。

考える内容は何でもかまいません。「この後おいしいものでも食べに行こう」「何を食べようかな」と楽しいことに思いをはせてもいいでしょうし、「この人が、気に障ることを言うのはなぜだろう」「今まで、こういうことを言ってはいけないと教えてくれる人がいなかったのかな」と、相手の境遇に思いをはせてもいいでしょう。
あるいは、「この人にこれから、こんな不幸が起こればいいのに」と、良心が痛まない程度の不幸(電車に乗り遅れる、汚物を踏む、足の小指を何かにぶつけて痛い思いをするなど)に相手が遭遇するイメージを思い浮かべてもいいかもしれません。

ちなみに、私自身は怒りを感じたとき、よく考えるのが、「これは果たして、怒るに値することだろうか」ということです。
誰かに対して怒りをぶつけるのは、なかなかエネルギーがいることです。
精神力も体力も消費しますし、怒っている姿を相手や周りの人に見せることで、自分に対する評価が変わってしまったり、敬遠されるようになってしまったりするリスクもあります。
たしかに、怒りを相手にぶつけることで、一時的に気持ちがスカッとするかもしれませんが、そこに、自分の貴重なエネルギーの消費やさまざまなリスクと引き換えにするほどの価値は、ほとんどないといってもいいでしょう。

あるいは、人生や宇宙に思いをはせてみるのもおすすめです。
人生の長さや宇宙の大きさを考えると、目の前の相手にちょっと失礼なこと、気に障ることを言われたことなど、ばかばかしくなるほど取るに足らないことだと思えるはずです。
一週間後や一か月後、一年後、十年後の自分が、果たして今、腹を立てていることを覚えているだろうか。
そんな想像をしてみると、案外、冷静さを取り戻せたりするものです。

「自分の怒りは妥当なのだろうか」と考えるのもいいでしょう。
「自分は今、この人に腹を立てているけれど、本当に怒るべき相手はほかにいるのではないだろうか(たとえば、会社や上司に対してネガティブな感情を抱いている人が、家族や街中でたまたまぶつかった人などを相手にストレスを発散する……というのは、よくある話です)」「自分は今、相手の言葉に腹を立てているけれど、相手にそんなことを言わせてしまう原因を作ったのは自分ではないだろうか」「自分も相手やほかの誰かに対して、同じようなことを言ったりしたりしていないだろうか」「相手には相手の思いや事情があるのではないだろうか」などと思いをめぐらすのです。

「頭に血が上っているときに、そんなことまで考えられない」と思う人もいるかもしれませんが、最初は難しくても、まずは「腹が立ったとき、あえて怒りをぶつける価値があるかどうか、怒りが妥当なのかどうかを考える」ことを意識してみてください。
そんなことを考えているうちに脳は冷静さを取り戻しますし、折に触れてそう考えているうちに、「人生において、本当に怒るべきことは、そう多くない」ということに気づくかもしれません。

「人間は完璧じゃない」と考え、他人への期待を捨てる

最後に、これは即効性のある方法ではなく、実践するのは少々難しいかもしれませんが、「他人に期待をしすぎない」ことも大事です。

怒りや不快感が、他人への期待の裏返しであることは少なくありません。
「人は本来、こうあるべき(なのに、この人は違う)」「私はこの人にこうしてほしい(のに、この人はそうしてくれない)」といった思いが、怒りや不快感につながってしまうわけです。

しかし、普段から「人間なんて欠陥だらけの生き物」「ミスや失敗、行き届かないところがあって当たり前」と思っていれば、会話の中で多少失礼なこと、気に障ることを言われようと、あまり気にならなくなるはずです。

心底そう思えるようになるまでは時間がかかるかもしれませんが、ためしに、誰かの言動に腹を立てるたびに、「人間は完璧じゃない」と自分に言い聞かせてみてください。
少しずつ、意識が変わっていくかもしれません。

どんな状況にあっても、自分を顧みたり、相手の事情を思いやったり、他人に期待しすぎないようにしたりする訓練を重ねていくことで、他者を理解し受け入れる能力が高まり、あなたの人間の幅が広がります。
つまり、どんどん「人から、話しやすいと思われる人」に近づいていくのです。

何も、聖人君子になる必要はありません。
私も、怒りをぶつける代わりに「おそらくこの人、同じ失敗を繰り返すだろうけど、何も言わずに放っておこう」などと、意地の悪いことを考えて自分を落ち着かせることがよくあります。

深呼吸や思考、他人への期待を捨てることによって怒りや不快感を鎮めたり、怒りをぶつけるのを抑えたりするのは、あくまでもあなたの貴重なエネルギーをセーブするため、あなたの評価を下げないため、そして話しやすい人に近づくためなのです。

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プロフィール

村本篤信
村本篤信

1972年大阪府生まれ。都立国立高校、一橋大学社会学部卒業。大日本印刷に入社後、フリーのライター、編集者に転身。 『3000円投資生活』シリーズ(アスコム/横山光昭)をはじめ、累計250万部以上 の書籍を手がけたほか、取材記事、社史などのライティングを行い、2021年には『ロジカルメモ』(アスコム)を刊行。 2012年に「テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞」優秀賞を受賞して以降は、ドラマや舞台の脚本も執筆。 一方で、90年代よりホラー系ドラァグクイーン「エスムラルダ」として、各種イベント、メディア、舞台公演などに出演し、2018年からは及川眠子・中崎英也のプロデュースにより、ディーヴァ・ユニット「八方不美人」を結成。エスムラルダ名義でのコラムや書籍のライティングも行っている。

著書

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村本篤信 /
話しやすい人になれば、人づきあいも、仕事も、初対面も、出会いも、家族もぜん...
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