一生折れないビジネスメンタルのつくり方

名越康文「ダメな自分」を受け入れることが、本当の自信を生む

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「ダメな自分」を受け入れる

「才能がない」「能力がない」「だから自信が持てない」と多くの人が口にします。でも、どんな人にだって能力はあるし、才能はあるんです。なぜなら、人間は社会の中で生きる動物だからです。どんな資質も、「どこで」「いかに」使うかによって、花開き、輝く場合もあれば、問題を引き起こす要因になってしまうこともある。これは安っぽいヒューマニズムの標語とは別次元の、厳粛な事実です。

いつも納期に仕事を間に合わせることができずに「自分は仕事が遅い」と悩んでいるあなたは、実は自分のペースで忍耐強く物事に取り組むことで成果を出せる、研究者タイプの人材なのかもしれません。あるいは、飽きっぽくて一つのことに集中できない人は、もしかすると、誰も思いもしなかった新しい事業を開拓していく、起業家精神にあふれた人なのかもしれません。

私たちはみな、なんらかの資質を持って生まれてきます。一見、どれほど役立たずで、無意味な資質に見えたとしても、それを一度、「ありのままの形」で見据えてる時間が必要なのです。そうすればその資質を社会のなかで「いかに使うか」という道も見えてくる可能性が高いのです。

普通だったら役にたたないような資質であっても、それを活かす場所や、活かし方、捉え方を変えることで、まったく違う見え方ができます。そういうふうに見ていくことで、自分を決して否定せずに、社会での居場所を見つけることができるんです。

「社会不適合者」だと自覚するから、人は協力することができる

「ありのままの自分では、社会に適応できない」という現実を受け入れることによって開かれるもうひとつの「道」。それは、「他人と協力する」という道です。

私たちはみな、ひとり残らず社会不適合者である。そのことがわかって初めて、私たちは素直に人を頼ったり、任せたりできるようになるのだと僕は考えています。

これは一見、矛盾しているように聞こえるかもしれません。「人と協力することができない人のことを、社会不適合者と呼ぶのではないか」と。

でも、私がいう「他人と協力する」というのは、別に「誰とでも社交的に、楽しく会話を交わすこと」ではありません。そうではなく、「自分だけでは何事をなすこともできない」という現実を謙虚に認め、他人に興味・関心を向ける、ということです。

光岡英稔(みつおかひでとし)さんという武術家がいます。光岡さんは韓氏意拳(かんしいけん)という中国武術の第一人者で、武術の世界の多くの人が認める天才的な武術家なのですが、私がいつも「すごい」と感心するのは、あれほど強い光岡さんが、いつも「他人から学ぶ」という姿勢を忘れないことです。

光岡さんが学ぶ相手というのは、一般的にみて「強い人」「すごい人」という枠に収まりません。例えば光岡さんは、重度の身体障害者の施設である菖蒲園というところと、深い親交を持たれています。武術を深く追求し、身体を動かすことのプロフェッショナルである光岡さんだからこそ、常識的にみてしまえば身体を自由に動かせない障害を持つ人の身体の中に、何か無限の可能性のようなものを学び取っておられる気がします。

「人と協力する」ということの本質は、別に仲良く言葉をかわしたり、目に見えるかたちでコミュニケーションを取ることではなく、「自分の外側」に関心を向け、自分とのコラボレーションの可能性を探るということです。これをやるためには、自分に「足りないところ」「欠落しているところ」があると深く自覚している必要があるのです。そうじゃなければ、他人に関心を向けたり、他人の強みや弱みを感じ取ることができないからです。

いくらお金を稼いだり、友人をたくさん作ったとしても、他人と協力できない人というのは、どうしても本当の意味での自信を持つことができません。自己完結するのではなく、他人とコラボレーションすること。これによって、人は初めて、本当の自信を手にできるのです。

「自分はそのままでは社会に適応できない」と知ること

社会の中で役割を果たし、評価を高めていくことは、基本的には自信を高めていくことにつながります。そういう意味では、仕事はがんばらないよりはがんばったほうがいいし、子育て中の人は子供に愛情を注いだほうがいいし、友達とはより友人関係を結んだほうがいいし、素敵な恋愛ができるなら、やったほうがいいでしょう。

でも、そうやってあらゆることを「がんばる」なかで、「ありのままの自分」を否定してしまうのは、心の奥底の、深いところで自分自身を傷つけてしまうことにつながります。そうすると、いくら社会的評価を高めたとしても、「自信」という意味では、プラスマイナスで、マイナスのほうが多くなってしまうんです。

まず「ありのままの自分」は、そのままでは社会に適応できない、ということを認める。

私は、気が回らずロクに人の役にも立てないし、特に魅力もない人間かもしれない。でも、そんな自分でも「かわいいやつだな」というぐらいの気持ちで、大切にする。そのうえで「でも、こんな駄目な自分でも、こんなふうにすれば、みんなの役に立てるんじゃないか?」「こういう強みを持っている人とコラボレーションすれば、何かを生み出すことができるんじゃないか」と工夫してみる。

もちろん、ときには、自分自身を変えていくこともあるかもしれません。しかし、無理やり自分自身を変えるのではなく、常に、元々の自分を出発点にして、社会に貢献したり、他人とコラボレーションする道を模索すること。これこそが、「ありのままの自分を受け入れる」ということの真意なのです。

次回に続く

 

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プロフィール

名越康文
名越康文

精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。
臨床に携わる一方、TVやラジオ番組でのコメンテーターや映画評論、漫画分析など、さまざまな分野で活躍する精神科医。
近著に『「SOLO TIME」ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である」』などがある。

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