一生折れないビジネスメンタルのつくり方

名越康文 朝起きたときに“会社に行きたくない”と思ったら……

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原因を切り分けるだけでも、心は軽くなる

コーピングの基本は、ストレスの原因を、可能な範囲で「切り分ける」ことです。

独立してクリニックを開業する前、僕は公立病院で勤務医をしていました。そのときはよく、朝起きるたびに“仕事に行きたくないな”と億劫になったものです。ただ、それがなぜかということを自分なりに分析してみると、仕事のなかで避けて通れないいくつかの「作業」が嫌になっていた、ということに気がつきました。

僕が、憂鬱だったのは、火曜日の朝でした。火曜日は外来がある日だったのですが、別に、外来診療そのものが苦痛だったわけではなく、診察の後の処方箋や報告書を書く仕事が、とても億劫だったのです。

朝起きて“会社に行きたくないなあ”と思った。そのときに「それはなぜなのか?」と自分自身に問いかけてみる。毎日顔を合わせる同僚に、嫌な人がいるからなのか。苦手意識のある作業があるからなのか。ストレス全体をとらえようとするのではなくて、その一部でもいいのです。何がストレス源(の一つ)になっているかを、焦点を絞って具体的に発見してみてください。

ストレス源の輪郭がある程度見えてくれば、次に、それが自分の仕事全体のうち、何割を占めているのかを考えてみましょう。ストレス源となっている仕事というのは、実はせいぜい、全体の1~2割程度しか占めていない、ということが多いものです。そのことに気づくだけでも、仕事に対する億劫さがフッと軽くなってくるはずです。

満員電車が人に与える巨大すぎるダメージ

都会で働いている人の場合、満員電車での通勤によるストレスが折り重なって、いつの間にかあなたにとって大きな負担となっていないか、ということも点検が必要ではないかと思います。

人には、パーソナルスペースというものがあります。それは概ね、半径1メートル程度といわれていますが、その範囲に知り合いでもない人が入ってくることは、多くの人にとって強いストレスをもたらします。

パーソナルスペースに何人もの人が入ってくる満員電車に毎日乗ることで、人は自己防衛のために、他人を拒絶する癖、嫌悪する癖がついてきます。その無意識のうちに生じる緊張やストレスが、電車を降りたあとも、その人の日常の人間関係に影響を及ぼしているということは十分考えうることです。

仕事自体は自分に合っているし、朝起きたときの体調もそう悪いわけではない。にもかかわらず、通勤電車の1時間のストレスが、他人に対する許容性を失わせ、ある種のノイローゼの引き金になる。そういうケースも、少なくありません。

昭和・平成を通じてサラリーマンといえば、同時間に出勤し、同時間に解放されるというのが当たり前でした。しかし、その当たり前の規範に、今やどれほどの意味があるのかを、会社単位で再考することが必要な時期かもしれません。

これは、個人的に対応することは難しい側面もある問題ですが、かなり多くの人にとって、大きなストレス源となっています。

朝の過ごし方を変える

低血圧などの身体的な特質のために、“朝起きたときに仕事に行きたくない”と感じる人もいます。こういう人はここ10年で増えており、人口の1割から2割に及ぶというのが私の見解です。

とにかく朝が苦手、という人が取りうる具体的な対策としては、朝起きたら、なるべく早めに「身体を動かす」ことです。ただし、激しい運動である必要はありません。
もっとも簡単で効果的なのは、おそらく「呼吸法」です。私がおすすめするものを説明しましょう。

ふつう呼吸といえば「吸って」「吐く」という動作のことですよね。わたしがおすすめする呼吸法はその間に「止める」をいれるだけです。息を鼻から胸いっぱいに吸って、腹の下にグッと下ろすようにして(ここがコツです)4秒以上止めます。そして8秒かけて口からゆっくり吐く。これだけです。5回から10回もやれば気分が上向き、爽やかで活動的になっていることでしょう。

さらにこの呼吸法に慣れたならば、息を止める時間、吐く時間をさらに長くしてみてください。そう、どちらも10秒ずつくらいまで伸ばせるようになれば、さらにその効果を実感できるようになるでしょう。

呼吸をしなければ我々は死んでしまいます。呼吸は私たちにとって日常の当たり前のことです。ですから、その呼吸を使って身体や精神のコンディションを増進させると言っても、多くの人は馬鹿にします。大したことはないと思ってしまうのです。
しかし実際には呼吸ほど大きな成果が約束されているエクササイズはありません。あまりに当たり前なので本気で取り組む人が少ないのはとても残念なことです。ぜひ日々の心身のコンディションづくりのために習慣にして欲しいところです。

運動として僕がみなさんにおすすめしていているものに、「足助体操」という体操があります。これは、足首、股関節を回すという、非常に簡単な運動です。寝たまま、足首、手首をゆっくりと3分ほどかけて回します。
寝床から出なくてもできるので、朝が苦手な人でも続けやすいはずです。これを習慣づけるだけでも、寝床から起き上がったときの気分が何割かは、明るくなっているはずです。具体的にはネットなどで情報を得てみてください。

あと忘れてはならないのは、朝食を必ず摂るということです。一般的にはチーズなどのタンパク質や果物などの消化されやすい糖分、時間がないときには野菜ジュースやスムージーを摂るということです。手軽でバランスのよい朝食は、朝の気分と仕事の効率を上げてくれることでしょう。

次回に続く

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プロフィール

名越康文
名越康文

精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。
臨床に携わる一方、TVやラジオ番組でのコメンテーターや映画評論、漫画分析など、さまざまな分野で活躍する精神科医。
近著に『「SOLO TIME」ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である」』などがある。

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