社員成長の決め手は、人事が9割

経営層は知っておきたい、「人事」に必要な資質と能力

2023.10.11 公式 社員成長の決め手は、人事が9割 第10回

なんであの人は、こういうことを言っているのだろう?

人事は「人への関心」を持っていたほうがいい。よく言われることですが、これは実際にあったほうがいいです。人事は社内の多くの人々と接する仕事です。人への関心を持ち続けることができないと、人事業務を続けていくのは難しいでしょう。

また、新しい制度などを始めるときは、ほぼ間違いなく「横やり」が入ります。社内のさまざまな人から「よくわからん」「難しすぎる」「面倒くさい」といった批判を受けることになります。これは至極当然な反応でしょう。すべての社員や管理職、ひいては経営陣に理解と共感をしてもらうことは、制度導入の当初は極めて難しいものです。

そうしたときに大事なのは、「なんであの人は、こういうことを言っているのだろう」と考えること。批判は、社員の本音です。人事は相手軸で考え、理解や共感、把握をしたうえで、施策を進めたり、制度設計をしていかなくてはなりません。

ただし、人への関心は持ちながらも、それに振り回されないことも重要です。公正な視点で考え、そのうえで「こうしよう!」と決めたことに関しては、たとえ批判があっても前に進めていかなくてはいけません。特に人事制度に関しては、さまざまな意見を承りながらも、一周回するまでは当初決めた考え方で運用すべきです。

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なぜなら、人事制度は制度設計で失敗することはほぼありません。失敗するとしたら、運用時にその軸がブレてしまったときです。だからこそ人事は、自分が信じる確固たる意志を持ち、周囲の批判があっても動じない覚悟が必要になるのです。

裏切られても、人を信じることができますか?

自分を信頼していることも、人事担当者の重要な資質の1つです。自分を客観的に捉えて「俺ってダメなやつ」と思うことはあっても、ずっと「俺ってダメなやつ」と思っている人は、他人のことも信じられません。自分を信じていない人は、他人のことも信じられないので、人事担当者には向いていないでしょう。

私は「人事は愛である」と考えています。「人は信じるに値するものであり、すべて感情をもっていて、そして愛されたがっている」と思って仕事に向かうべきではないかと。ですから、自分も含めて「人」を信じられることが重要だと思うのです。

人事は、裏切られることの多い職務です。苦労して採用した人が、すぐに辞めてしまうことも珍しくありません。人に害を与えたり、不正をする人もいます。それでも「人は信じられるものだ」と思わなければやっていけません。人を信じ続けることができる。そんな愛を持った人が人事には向いています。

愛は一方で過酷です。相手のことを思えばこその「お別れ」もあります。採用した人に対しても「もうこの会社での役割は終わったな」と判断したときは、別の道を勧めなくてはならないこともあります。そういう決断をしたときに、根底に人事担当者の愛を感じなければ、相手もそれを決して受け入れないでしょう。

また、守るべきものを守るのも愛です。不正やハラスメントなどの加害者に対しては、厳しく対応しなければなりません。情感に引きずられてはならない。決めを打たなければ、みんなが惑い、迷います。会社は更生の場ではありません。しかるべき機関に委ねることも必要になるでしょう。

人事は裏切られることの多い職務ですが、それでも愛を持っていかなければならない。逆に、人を信じられなくなったら、愛を感じられなくなったら、「人事」をしてはならない。そのくらい大事なことだと私は考えています。

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人事担当者に必要な能力の数々、自己客観視、人の関心、人への愛…これらすべてを自分は完全にできている、とは言えません。私もできていないことがたくさんあります。

それでも、これらを目指していますし、目指さなくてはいけないと考えています。人事担当者を任命するときは、また、ご自身で人事をやってみようと思っている人は、今回お伝えした人事担当者に必要な能力、そして資質について考えてみてください。

つづく

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プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

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