社員成長の決め手は、人事が9割

人事が強い会社は、社員に「企業理念」が浸透している?

理念とは「その会社らしさ」を表すもの

Getty Images

会社が成長するためにも、良い人材を採用するためにも、そして人事部門を設立する際にも、最も重要なのは「理念」です。前回そのようにお伝えしましたが、社員が共感できる「理念」とは、どんなものなのでしょうか。

理念は、企業によって表現方法は異なりますが、一般的に上記のように定義されています。企業の存在理由(使命・目的)=ミッション、企業の目指す姿(将来像)=ビジョン、企業の価値観(信念)=バリュー、また、これらに基づく社員の行動指針、これらの総称が「理念」と呼ばれ、企業理念や経営理念として示されています。

要は「その会社らしさ」を表すものですね。どのような使命を持っているのか、何を目指しているのか、どんな価値観で働いているのか。その会社の「個性」を表すものが「理念」と考えると良いでしょう。

ですから「お客様第一主義」「お客様の笑顔のために」といった、よくあるフレーズだけでは「他社も同じこと言ってるじゃん」となってしまうため、社員の共感は得られにくくなります。他の会社と何が違うのか、どんな個性があるのか、「その会社らしさ」を具体的に表現することが望ましいです。

また、社員だけではなく、求職者に対しても「自分と同じ価値観だな。この会社は合うな」あるいは「合わないな」、「同じ目標に向かって頑張れそうだな」「無理だな」と判断できる理念を示すことが、採用における大事なポイントになってきます。

就職と結婚はよく似ています。結婚はお互いの個性が合うかどうかが大切ですよね。相手の収入だけ見て結婚しても、その後の長い生活があります。採用も同じです。「その会社らしさ」をわかりやすく示して、共感してくれる人を探す。それもまた、理念の重要な役割の1つです。

理念は、万人に共感される必要はない

たとえば、私の前々職であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は、以下の理念と行動指針を掲げていました。

<CCCの理念>
ミッション:カルチュア・インフラをつくっていくカンパニー
ビジョン:世界一の企画会社
バリュー:自由・約束・プロ・個客中心・信頼・感謝・感性・夢

<行動指針>
1.顧客を一番知っている人間になる。
2.顧客の言うことを聞くな、顧客のためになることをなせ
3.顧客に「ありがとう」と言われる仕事をする
4.自分の志で人生をつくり、世界一流になれる仕事の領域をもつ
5.約束は誇りにかけて守る。やり切る。できない約束は悪をつくる
6.その場で決断をする。問題をのばすことが問題となる
7.現場・現物・現実の情報を組み合わせる。会社にいるな、世の中にいろ
8.好感度人間たれ。好かれなければ情報は集まらない
9.企画、企画、企画。勇気、勇気、勇気。失敗を恐れない。その先に成長がある
10.出を制して、入りを図る

以上を、今日、行動せよ。

(参照元 CCCホームページ:https://www.ccc.co.jp/recruit/value/)

CCCは、CDやDVDなどのレンタルショップ「TSUTAYA」を中心としたエンターテインメント事業で成長し、現在は「Tポイント」などを中心としたデータベース・マーケティング事業で広く知られている企業です。

同社における「企画」とは、ライフスタイルに革命を起こすような仕組み、つまり生活を新しくするインフラやプラットフォームのこと。「こんな生活はどうですか」とライフスタイルの提案をし、誰でも利用できるインフラにする事業を行っています。

「カルチュア・インフラをつくっていくカンパニー」というミッションや「世界一の企画会社」というビジョンは、他社とは異なる「その会社らしさ」をわかりやすく表しているのではないでしょうか。

Getty Images

10の行動指針は、すべてが万人に共感されるものではないかもしれません。しかし、それでいいのです。求める行動や考え方を具体的に示すことによって、社員の共感はもちろん、求職者にとっても判断基準が明確になっています。

理念は、万人に共感される必要はありません。100人いても100人と結婚することがないように、理念は100人のうちの2〜3人に共感してもらえばいいのです。

離婚の原因として「価値観の相違」や「性格の不一致」が多いように、企業と社員も価値観や考え方が一致していることが非常に重要です。そうでなければ、お互い辛くなるだけ。「能力があるから」「経験者だから」「福利厚生が充実しているから」といった理由だけで採用しても、結局は長く続きません。

万人に受けなくてもいい。同じ価値観を持った人に対して「君だよ君」と、しっかり届く。それこそが社員が共感できる、目指すべき理念といえるでしょう。

ご感想はこちら

プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

著書

人事はあなたのココを見ている!

人事はあなたのココを見ている!

西尾 太 /
空前のリストラ時代、ビジネスマン人生の明暗を分けるのは、人事の評価である。...
人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準

人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準

西尾 太 /
「頑張っている」はもはや無意味。「成果」こそが揺るぎない価値になるこの時代...
出版をご希望の方へ

公式連載