リーダーは“空気”をつくれ!

優れたリーダーは、思い込みで決めつけない

2017.07.21 公式 リーダーは“空気”をつくれ! 第3回
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ずれた感性でチームの空気を壊したリーダー

今回は、「自分の思い込みでチームの空気を壊してしまったリーダー」の話です。その後このリーダーは、自分の思い込みがチームの空気を壊していることに気づき、自分の行動を見直すことでメンバーとの関係を作り直すことができました。実際にやったのは決して特別なことでなく、ほんの少しの意識があれば、初めからできたはずのことです。このリーダーの思い込みが、チームにどんな影響をもたらしたのか、また、それを避けるにはどんなことを考えるべきだったのかについてお伝えしていきます。

あるチームに新任の男性リーダーがやってきました。このチームは社内のバックオフィスを一手に担っており、メンバーの半数は女性という構成です。全社からさまざまな仕事が集まってきますから、業務量もそれなりに多いところです。しかし、ベテランのメンバーを中心としてチームワークがよいと評判で、一般的に見れば少ない人数で効率的に業務を回しています。

しかし、このチームに配属された新任のリーダーは、これまでは営業経験が中心の人です。本人が「もっと会社全体の仕事を知りたい」と希望していたこともあり、このチームのリーダーに抜擢された経緯があります。いろいろな仕事に積極的に取り組もうという発想の人なので、「もっと上を目指したい」という上昇志向は強く、多少のハードワークもいとわない仕事熱心なリーダーです。会社からも期待されている人材の一人でした。

そんな新任リーダーの目から見ると、このチームの仕事ぶりは何となく物足りなく見えていました。確かにみんなテキパキと動いてはいますが、何か活気のようなものを感じません。気づいたのは、以前の営業のチームと比べて仕事中の会話が少ないということです。このリーダーは、お互いにもっと確認しなければならないことがあるはずだし、雑談も含めてもっと会話があってもよいと思っています。

また、このチームでは、定時になるとメンバーのほとんどは、仕事を終わらせて帰ってしまいます。仕事自体はきちんと終わっているので何の問題もないはずですが、やはりリーダーの目には物足りなく映ります。「定時で終わるなんて仕事量が少ないのではないか」「自分を高める意識が足りないのではないか」という思いが、彼の中にありました。

それからしばらく経ったある日、このリーダーは自分の思っていることをメンバーたちに伝えました。話したのはこんな内容のことでした。

「自分の力を高めるためにもっと働いて、もっと頑張って稼ごう」
「そうやってよい評価を受けて、給料を上げよう」
「もっと会話をして、明るい雰囲気にしよう」

これらのことは、リーダー自身が今までも実践してきたことですし、そのおかげでチームをまとめてきたという自負もあります。自分としてはこの考え方に疑いの余地はありません。その後も、機会があるたびに同じような話をして、メンバーたちへの働きかけを続けていました。

しかし、ここから徐々にメンバーたちのリーダーに接する態度が変わってきたのです。必要以上のコミュニケーションを避け、リーダーから距離を取るようになっていったのです。リーダー自身はその理由がまったく理解できません。

仕事上で問題が起こる状況までには至っていないものの、メンバーとのコミュニケーションがうまくいっていないことは間違いなく、このままではいつか必ず問題が起こるでしょう。特に新任リーダーとして、自分のリーダーシップが受け入れられていない状況は、そのまま放置できるものではありません。自分では当然と思っていることが、メンバーたちから理解されないことに対する苛立ちもあります。

メンバーたちとのミーティングで言われたこと

そんな状況を立て直そうと、この新任リーダーは、あらためて全メンバーを集めてミーティングを行うことにしました。ミーティングでは、いつものように自分の考えを述べた後、それぞれのメンバーに意見を求めました。そこで、まず初めに話し始めたベテランの女性が言ったのはこんなことでした。

「みんなで稼ごうというのは、私たちにもっと残業しろということですか?」
「上を目指そうというのは、いったい何を求めているのですか?」
「昇進したいとか、給料をどんどん上げたいとか、そういう意識で仕事をしている訳ではありません」

このチームは、社内のバックオフィスを担っていますから、日常の決められた業務をいかにミスなく効率的に進めるかが、最も大事な役割になります。当然その中で改善努力もしていますが、何かが劇的に変わるようなことは少なく、日々の小さな工夫の積み重ねで、少しずつ改善を続けているのが実情です。

さらにメンバーの半数を占める女性のうち、子育て中の人が何人かいます。家庭と仕事の両立を考えれば、効率よく仕事を終わらせて家庭のことにも時間を割くことが必要です。ですから就業中はできるだけ仕事に集中し、雑談などは最小限にとどめ、効率的に早く仕事を終わらせようというのが、このチームメンバー同士のコンセンサス(相互理解)でした。

そんなチームにやってきた新任リーダーが、「もっと働こう」「もっと話そう」と言い出したことは、メンバーにとっては「稼ごうといっても急に給料が上がるわけでもない」「上を目指そうといわれても何をすればいいのかわからない」「そんなことでは仕事の効率が下がるだけ」という反発の気持ちしか生まれません。「今までよりも仕事がやりづらくなる」という思いしか生まれなかったのです。

一方の新任リーダーに、そんなつもりはありませんでした。しかし結果的に彼は、自身が経験してきた職場の雰囲気や、自分の価値観を押し付けていたのです。仕事と家庭の両立などは、リーダー自身が仕事中心の人だったこともあり、認識が浅いところもありました。それ以前に、このチームのメンバー間で共有されていた価値観と新任リーダーが押し付けた価値観とは、かなり異なっていたのです。

このリーダーはチームのメンバーから見ると「仕事の優先順位がずれた、時間にけじめがない非効率な働き方で長時間労働を要求する人」ということになってしまうのです。

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プロフィール

小笠原隆夫
小笠原隆夫

ユニティ・サポート代表・人事コンサルタント・経営士
BIP株式会社代表取締役社長

IT企業で開発SE職を務めた後、同社で新卒中途の採用活動、人事制度構築と運用、ほか人事マネージャー職などに従事。二度のM&Aでは責任者として制度や組織統合を担当。
2007年2月に「ユニティ・サポート」を設立し、同代表に。以降、人事コンサルタントとして、組織特性を見据えた人事戦略や人事制度策定、採用支援、CHRO(最高人事責任者)
支援など、人事・組織の課題解決に向けたコンサルティングをさまざまな企業に実施。
2012年3月より「BIP株式会社」にパートナーとして参画し、2013年3月より同社取締役、2017年2月より同社代表取締役社長。

著書

リーダーは“空気”をつくれ!

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