こんな仕事絶対イヤだ!

中世版タクシー“人間ドラマ”を運ぶ男達――セダンチェア担ぎ

2017.04.19 公式 こんな仕事絶対イヤだ! 第16回

巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……

お客さんを人力で輸送する中世版タクシー

17世紀前半のヨーロッパでは、セダンチェアという乗り物が流行していた。2人1組の人力でお客を運ぶという、日本のかご屋と似た商売である。セダンチェアは、2本の長い棒の間に大人ひとりが座れるくらいの窓付きの箱が付いている。棒には前後とも革のベルトが渡してあったので、担ぎ手はベルトを肩にかけて重さを分散させることができた。持ち上げられた乗り手のほうの感覚は、子供用お神輿の上に乗っているような感じに近かろう。ちなみに、誰も乗っていないときにはチェアを前後さかさまにして移動していたので、分かりやすかった。客に嫌がらせをしていたわけではない。

チェア自体の重量は約30キログラムあるため、担ぎ手はそれに客の体重を加えたものを運搬しなければならなかった。もともと、馬車の交通渋滞を回避するための小回りの利く乗り物として登場したわけだから、移動には早歩き程度のスピードが求められた。しかし、乗客が巨漢であっても料金は一律だったというから、なかなか良心的と言える。

この乗り物を利用していたのは、上流階級の人間たちであった。日々のお出かけから舞踏会、不倫の密会まで実にさまざまな用途に活躍した。それゆえ、強盗にも遭いやすかった。いざ強盗に襲われた場合には、セダンチェア担ぎは命を呈して顧客を守る義務はなかった。さっさとチェアから離れ、“大人のカツアゲ”が終了するまで待っていた。客の安否よりも、商売道具が壊されたりしないのか、なんてことを心配していたのかも知れない。金を巻き上げられて半泣きの客を背に、セダンチェア担ぎは何を思ったのだろうか。

(illustration:斉藤剛史)


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プロフィール

清水謙太郎
清水謙太郎

1981年3月、東京都生まれ。成蹊大学卒業後にパソコン雑誌の編集を手がける。また、フリーライターとして文房具、自転車などの書籍のライティングや秋葉原のショップ取材等もこなし、多岐に渡る分野でマルチな才能を発揮している。

著書

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