こんな仕事絶対イヤだ!

ひたすら水を運ぶハードワーカー――水運搬人

2017.04.26 公式 こんな仕事絶対イヤだ! 第18回

巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……

清潔な生活用水を庶民に提供、こっそり汚水も

13~14世紀頃のヨーロッパでは、水不足が切実な問題となっていた。特に、人口増加が著しいロンドンやパリで顕著だった。富裕層は水道を利用することができたが、一般市民にとってそれはまだ高嶺の花だった。

テムズ川やセーヌ川は生活排水で汚染されている恐れがあったのでうかつに使えなかったし、井戸はチフス菌やコレラ菌でこれまた汚染されているものがあり、危なくてとても飲めたものではなかった。のどが渇いただけならワインやビールで用が足りたが、大人はともかく、酒で渇きを癒す子供というのはちょっとイヤなものである。また、料理をするにも清潔な水は不可欠であるから、清潔な水を運搬してきて売るという仕事が成立したわけだ。

彼らは、前後に桶を下げた天秤棒を担いで水を売った。ひとつの桶はおよそ15リットルほどの容量だったから、合計でおよそ30キログラムの重荷を運んでいたことになる。また、元手のある者は馬と荷車を用意して、より多くの水を運んだ。フランス革命前のパリでは2000人前後の水運搬人がいたというから、水不足がどれだけ逼迫(ひっぱく)していたかうかがい知ることができよう。

だが、それだけ大人数の人間が同じ場所で同じ仕事をやっていると、中には他人を出し抜いて儲けようという奴が出てくるものだ。大多数のまじめな水運搬人に混じって、ズル水運搬人は汚れた水を汲んで売っていたのである。けれども、そんなあくどい商売をしていたら、疑心暗鬼で自分が飲む水も美味くなかったに違いない。

(illustration:斉藤剛史)


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プロフィール

清水謙太郎
清水謙太郎

1981年3月、東京都生まれ。成蹊大学卒業後にパソコン雑誌の編集を手がける。また、フリーライターとして文房具、自転車などの書籍のライティングや秋葉原のショップ取材等もこなし、多岐に渡る分野でマルチな才能を発揮している。

著書

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金持ちの道楽として庭で飼われた「隠遁者」、貴族の吐いたゲロを素早く回収する...
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