友達0のコミュ障が「一人」で稼げるようになったぼっち仕事術

「いきおいで起業」してみたコミュ障の末路

父の伝手でエンジェル投資家に1000万円資金援助を受け、株式会社を設立

いつの間にかまた一人になって別の事業計画書を作っていた私を心配して、また父が強力な知人を紹介してくれました。ここでは投資家さんと呼ぶことにします。

事業計画書には、「ネットが使えない主婦向けの人間ドック予約アプリ」作りの必要資金として3000万円と記載しました。金額は、事前予約&決済システムの最低限必要な機能を作るだけの時間とエンジニアの平均単価を掛け合わせて算出したものです。

投資家さんに連絡を取り、またドキバクしながら、今度は相模大野の改札前のカフェで待ち合わせとなりました。
カフェに紙袋を提げて現れたのは、とても優しそうな雰囲気の、ラフな服装のおじさん。話しやすそうな人でよかったと胸を撫で下ろしつつ、自分でも不安な企画を息も絶え絶えになりながら説明しました。

投資家さんは相槌を打ち、私のつたない説明に最後まで耳を傾けてくれました。そして、「よくわからないから、まずは形にしてみたら?」と言いました。そういえば、ビジネスインキュベータさんにも全く同じことを言われたけど、あれから4ヶ月経ってるのに何も形になってない(涙)

そんなダメな私でしたが、投資家さんは「とりあえず1000万円」と出資してくださいました。めちゃくちゃ驚きました。その人にとってはポンと出せるお金だったのかもしれませんが、会社を辞めて一年、貯金を減らしてきた私にとって、1000万円は目の眩む大金です。

でも、これはすごいチャンスを掴んだぞ! と。そして、初めて認めてもらえた喜びと安心感に包まれました。
その後、本を読みながら法人登記など諸々の手続きを済ませ、株式会社と会社用の口座を作って、投資家の方からの資金1000万円の受け皿としました。

ポシャったビジネス企画② 人間ドック関連の情報発信サイトで顧客リスト集め

会社設立の手続きを進めている時、前職でお世話になった方から飲みのお誘いが来ました。こういう連絡は初めてで驚いたのですが、ちょうどエンジニアも探していたので(エンジニアさん一人ではどの道足りない)うまくいけば紹介してもらえるかも、と飲みに行くことに。

飲みの席で会社設立の話をしたところ、その方にサポーターになってもらえることになりました。この人をサポーターさんと呼ぶことにします。
サポーターさんは、私より一回りほど年上で、ベンチャーの創業メンバーから取締役になった方。だから、起業して頑張っている人は応援したい、と申し出てくれたのです。
具体的な企画の内容と、システム作りのためのエンジニアを探している旨を伝えると、サポーターさんは渋い顔をして言いました。

「まずはHPを作って、コラムを書いて読者をつかむ。サービスを知ってもらうのが第一」

「最初にモノ(システム)を作ると、ほぼ100%失敗する」

「最初は顧客なんて数人なんだから、サービス提供はシステム化せず手動でやれば良い」

「いきなりお金は使わない。まずはタダでできることを全部やる」

「手動で顧客にサービス提供して、フィードバックもらいながらサービスの形を決めて行った方がいい」

どれもこれも経験に基づく納得感のあるアドバイスで、サポーターさんが本気で考えてくれていることが伝わってきました。しかも具体的だったので「これなら自分にもできそう!」と思えました。

そこで、自分で考えていた計画はいったん白紙に戻し、HP作りから取り掛かることにしました。
いつまでにHPを作って、いつまでに何本コラムをアップして、という具対的なスケジュールをサポーターさんがバシバシ作ってくれ、自分のタスクが明確になりました。私は余計なことは考えず、それをひたすらこなすだけで良くなったわけです。

会社を辞めてからは一人で悩み、申し訳ないと思いながら人にお願いしたりしていたので、人から言い渡された仕事をただこなす、というのは久しぶりでした。
不思議とこのおかげで、すごく精神的に安定しました。悩みがないだけでこんなにも手が速く動くのか、と自分でもびっくりしました。

HPを作って3ヶ月くらい、人間ドック関連の記事をアップする日々が続きました。記事が100本を超え、サイトも育ってきたな、と思った矢先――なんともタイミングの悪いことに、WELQ問題(2016年末、ヘルスケア情報キュレーションサイトWELQが、医学的根拠のない記事を拡散していたことが問題視され、閉鎖に追い込まれた騒動)が起こり、ネット上のあらゆる医療系情報サイトが次々に自主閉鎖したのです。
これにはどうしようもなく、サポーターさんも「これから、医療系はちょっと難しいかもしれませんね」としょんぼり。結局、このビジネスも軌道に乗る前に立ち消えになりました。

ポシャったビジネス企画③ ペットあずかりアプリ

実家に戻って1年。自分なりにも精一杯やったにもかかわらず、状況は福岡から戻ってきた頃から一歩も前進していませんでした。いい加減キレた私はついに決断します。自分でアプリ作れるようになろう、と。

何度もチャレンジするとか修正するとかを考慮し、自分で作れるようになった方が早いし安上がりだと考えました。また、クソ真面目に企画を考えると来来来世になっちゃうので、どんなアプリにするかはすごく適当に決定。ズバリ、自分が欲しいと思うアプリです。

人間より動物のほうが好きな私は、「ペット良いなーもふもふしたいなー」といつも思っていました。しかし、実家なのでおいそれと飼えない! そこで、一時的な「あずかり」なら、動物にもふもふできるんじゃないかと思いつき、私と似たようなニーズを持つ人もきっといる、と考えました。そして、「ユーザー同士でペットをあずけたりあずかったりしあえるSNSアプリを作ろう!」と。

完全に自分がもふもふしたくて作り始めたアプリでしたが、時間が経つにつれ、ペットの里親探し等にも貢献できそうだ、とか欲が出てきました。さらに、アプリのターゲットも変わっていき、動物好きな人からペットショップのオーナーやら動物愛護センターへとブレていくことに。あと、たくさんの人に使ってもらいたいので無料で提供することにしました。ユーザーが増えたら広告でも出してアフィリエイトで儲ければいいやというわけです。

自腹を切って15万円でオンラインのプログラミング教室(iPhoneアプリ開発コース)を受講しました。期間は3ヶ月。Xcodeのインストールから始めて、「やっぱIT嫌い」と涙目になりながら毎日トライ&エラーを繰り返しました。
リリースした後「こんなショボいアプリ、誰も欲しがらないよ」とバッシングされる恐怖にさいなまれ、知らず知らずのうちに機能がどんどん増えていきます。自室に引きこもってほとんど眠らずコーヒー(目覚まし)とウイスキー(精神安定)を交互に飲んでパソコンに張り付いていたせいか、4kg痩せて肌もボロボロになりました。

オンライン講座の受講期間が終わってからも開発を続け、スタートしてから5ヶ月後、なんとかAppStoreにリリースすることができました。リリースし、AppStoreの新着アプリのページに自分のアプリが載った時はとても嬉しかったです。ついにやりきったぞ!と達成感と自分を褒めてあげたい気持ちでいっぱいになりました。

しかし。

30分ほど経ってから新着ページ覗くと、もうそこに私のアプリはありませんでした。アプリ名で検索しても、上位に出てくるのはペット関連の違うアプリばかり。私のアプリは、存在しないも同じでした。

そして2週間後。その間、アプリに登録してくれたユーザーは4人。あずけたいペットを登録(写真アップロード)してくれた人はたった2人。15万円も自腹切ったのに! 5ヶ月もかけたのに! 無料なのに!(血涙)

あずけたい人とあずかりたい人がマッチングしないため、専用チャット、あずける期間や条件の交渉機能など死ぬほど時間をかけて作ったものは、誰にも使われませんでした。

その後、完全に燃え尽きた私は、失意のどん底で配送業のアルバイトを始めます。借金を抱えたなどの致命的な大失敗はしていないものの、何をやっても取っ掛かりすら掴めず、人生がゆるい傾斜を滑り落ちていくようで不安でした。しかしその一方で、自分の内にちょっとした変化を感じていました。

他人を遠ざけて一人で生きていこうとして頑張り続けていましたが、気づくといつも誰かに助けられてばかり。

人ってありがたいなと。

次回は、第3回から書いてきたテーマの総決算(3回で終わるはずが、1回分の延びました)。ぼっちで働くために人がいかに大切か、についてです。

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プロフィール

末岐碧衣
末岐碧衣

コミュ障で友達0人のシステムエンジニア。早稲田大学理工学部卒業。新卒でITコンサルティング企業に入社したものの、コミュ障が爆発し、人間関係が崩壊する。うつにより休職した後は、コミュ障の自覚を持ち、チームプレイを避けて一人でできる仕事に専念するようになる。2015年フリーランスとして独立。一度も営業せず、独立前の年収3倍を達成。

著書

友達0のコミュ障が「一人」で稼げるようになったぼっち仕事術

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末岐碧衣 /
「コミュ障」で「友達が0人」という、社会にうまく適応できない著者が、多くの...
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