仕事を教えるときに、やり方を教えるアプローチは「手順だけ教育」です。
どういう手順でやれば仕事がうまくいくのか、その答えをどんどん教えてしまうのです。
手順だけ教育の育成をすると、失敗したり迷ったりすることは少なくなるかもしれませんが、部下は自分で考えなくなります。
そこで、やり方ではなく、ゴールを伝えなくてはなりません。
ここで改めてですが、やり方(手順)とゴール(基準)の違いを明確にしておきましょう。
カーナビにたとえると、目的地の入力がゴール(基準)、目的地までのルートがやり方(手順)です。
仕事の目的地を詳細に伝え、「どういう状態になりたいか」というゴールを共有し、「目的地へどう向かうか」のやり方は、自分で考えさせるのが、ここでのスタイルです。
たとえば、会議資料の作成を部下に任せようとしたとします。皆さんならどんな指示を出しますか?
「この会議資料を作って」と指示を出すと、部下は「どうやって作ったらいいですか?」と質問してくるでしょう。
手順だけ教育の人はそこで「内容はこうで、こういう手順で、こうやって作って」と細かくやり方を指示していきます。部下は、「ここはどうしたらいいですか?」とそのつど判断をあおぎ、自分で考えようとせず、上司にやり方をいちいち質問するというスタイルになってしまいます。これでは、資料はできても部下の成長にはつながりません。
ゴールを共有するというのは、たとえば「営業会議でAエリアの業績を上げるために、コストをかけたプロモーションをやりたいから、その承認を得るための資料を作ってほしい」といった伝え方です。
「部長は費用対効果を気にしていたから、費用対効果がわかるものにしてほしい」など、目指すゴールを伝えていき、では、どうやって費用対効果がわかる資料を作るのか、どうやって承認をとる状態を勝ちとるのか、そのやり方は部下自身に考えさせます。
やり方がわからない部下は、困って質問してくるでしょう。「どうしたらいいでしょう?」と。
しかしここが踏ん張りどころです。
指示待ち状態になってしまった部下は、自分に自信がありません。
不安なのです。
自分が考えたやり方で仕事をして、上司に怒られるのが耐えられません。本当は自分で答えを見つける力があったとしても、上司に確認をとらずにいられないのです。
多くの上司は、ここでうっかり、やり方を教えてしまうわけです。
つい自分が教えたほうが早いと思ってしまい、口を出してしまいます。
しかしここでやり方を教えれば、あなたの部下は次回もあなたの指示をあおぎ、迷えばそのつど確認をとりに来ます。
長い目で見ると、非常に効率が悪い育成になってしまうのです。
「どうしたらいいと思う?」「○○を調べてみたらどうだろう?」「○○さんに聞いてみたら?」などと質問を投げかけながら、部下自身に考えさせましょう。
やり方を教えず考えさせていると、部下から「こういうやり方はどうでしょう」と自分でやり方を見つけるタイミングが出てきます。
それでうまくいきそうならそのままやらせ、褒めてあげましょう。
問題は、うまくいかなかったときです。
できなかったことを責めたり、叱ったりすると、せっかく自分で考えたのに叱られたということで、部下はそのあと自分で考えようとしなくなってしまいます。
うまくいかなかったときには、それでも良い部分がなかったかを探します。「計画自体は良かった」「目のつけどころは良かった」「やろうとした姿勢は良かった」など、何かしら良かったことを褒めてください。
この褒めがないと部下は育ちません。自分で考えて行動できない人は、自信がないわけですから、上司からやり方を教えてもらえず、自分で考えてやってみたら、いっさい褒められず叱られる。これでは、さらに自信をなくすだけです。
どんな些細なことでもいいので、少なくとも「自分で考えて行動したこと」は褒めてあげましょう。
この小さな褒めが、大きな違いを生みます。
そのうえで、「どうしたらうまくいったと思う?」「他にどんなやり方があったかな?」「○○は調べてみた?」「○○さんには聞いてみた?」と、あくまでやり方を教えず、次に向けて考えさせます。
一度、自分で考えて、行動して成果をあげることができた部下は、しだいに指示をあおがなくて済むようになります。
このアプローチ方法は、やり始めこそ手間がかかります。
大変だと感じると思いますが、これが1ヶ月、2ヶ月と続けていくと、部下はみるみるたくましくなります。仕事のゴールさえ伝えれば、自分で考えて成果を出すようになり、見違える成長を遂げます。
仕事を丸投げするのではなく、ゴールを共有し、やり方は考えさせ、うまくいったら褒め、うまくいかなくても良い部分を褒め、うまくいかなかった部分を考えさせる。
決して難しいことではありませんが、実行できている人は少ないのです。
教えない、育てない。
すると、部下は勝手に育ちます。部下は、育てるのではなく、育つ。ぜひ覚えておいてください。