健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

高血圧でも無理に下げようとしないほうがいい訳

Getty Images

高血圧症を治すと長生きできるのでしょうか

今回は、健康について話す際によくとりあげられるものの、じつはよく理解されていないままになっている、「高血圧」と「高コレステロール」についてお話しします。

まず大前提ですが、病気を治療する目的は、基準値を維持することではなく、治療することによって長生きできるかどうかです。
先に結論めいたことを書いてしまうと、高血圧であったり、コレステロールの値が高い状態であったりしても、無理に治さないほうが長生きできる、ということもあるのです。

ここで唐突ですが、日本人の平均寿命の話をします。
1965年に男性で67.7歳だった平均寿命は、2023年には81.5歳まで延びました。このように平均寿命が飛躍的に延びた理由の一つは、それまで死亡原因の1位だった脳卒中が減ったことです。

脳卒中には血圧が大きく関わっています。
1960年代の日本人の70歳以上の収縮期血圧は平均166mmHgでしたが、最近では141mmHgまで下がりました。
日本人の血圧が下がった要因は複数あると思いますが、食生活の変化が指摘されることがあります。たとえば、1960年代には日本人の塩分摂取量は1日約17gでしたが、今は約10gまで減ってきています。
こうしたデータを見ると、とにかく血圧を下がったことで脳卒中が減り、平均寿命まで延びたように感じられます。

しかし、逆の結果もあります。
糖尿病患者であった場合、高血圧にならないように管理したことで逆に、心筋梗塞の発病リスクを高めてしまったという報告があるのです。
なお、各国の高血圧治療ガイドラインでは、糖尿病で高血圧症を合併している場合の治療目標として、これまでの130/80mmHg未満ではなく、140/90mmHg未満を採用するようになっています。

その一方で、日本人に多い脳卒中においては、糖尿病患者であろうと130mmHg未満に血圧を下げることで、そのリスクを減少させることができました。
ちょっとややこしいのですが、こうした結果を踏まえて、日本においては、糖尿病で高血圧症を合併した人の血圧は130/80mmHg未満に設定しています。

逆の、逆の、逆の例になるので、さらにややこしいのですが、主に心筋梗塞などの患者を対象にした研究では、拡張期血圧の低下によりむしろ予後が悪化する可能性が示唆されています。
つまり、心筋梗塞などの患者では、血圧を下げすぎると心血管死亡率が増加してしまうのです。

いずれにしても、こうしたデータから言えることは、高血圧症は合併症によって血圧の管理の程度を考えなくてはいけず、一概に「高血圧=悪」というわけではないのです。

ご感想はこちら

プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界で一番受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。推理作家協会会員。

出版をご希望の方へ

公式連載