続いて、コレステロールについてです。
ご存知の方も多いと思いますが、コレステロールの多い卵や肉類を食べても数値に影響がないとして、2015年に厚生労働省はコレステロールの摂取制限を撤廃しました。コレステロールが高いからと、卵などの高コレステロール食材を食べるのを制限していた人も多かったというのもあり、いまだに混乱を引き起こしています。
脳卒中や心筋梗塞は、血管が切れたり詰まったりして起きます。日本人の死亡原因の25%くらいがこれらの病気です。その最大の原因は、動脈硬化です。その動脈硬化に関係するのが、コレステロールなのです。
とはいえ、悪者に見られがちなコレステロールですが、じつは人間のからだにとって重要なものです。人間のからだの細胞の細胞膜の主原料であり、脳の神経細胞にも重要な役割を持っています。女性ホルモンを合成するにも必要なものです。
これほど重要なものですから、からだの仕組みとして、コレステロールは肝臓で8割作られるようになっており、じつは食事から摂取するのは2割程度しかありません。
つまり、安定供給のために自分のからだで作っているので、前述したように卵やコレステロールの多い食品を食べても、血液中のコレステロール値にはほとんど影響しないのです。
そもそも、コレステロールにも種類があります。
コレステロールは血液に溶けないので、運びやすい形にしたのがLDL(悪玉)コレステロール。余ったコレステロールを肝臓まで運ぶのをHDL(善玉)コレステロールと呼んでいます。現在の自治体が行っている健康診断では、LDLコレステロールだけを問題にしています。
LDLコレステロールは量が増えすぎると、余ったものが血管壁に入り込んで、動脈の壁を厚くして動脈硬化の原因となります。そのためにLDLコレステロールを基準値に保つこと大切になってきます。
ならば、LDLコレステロールが悪者で、低い数値であれば良いのかというとそうでもありません。
日本脂質栄養学会では、コレステロールを下げる薬「スタチン」を投与する必要のない人にまで使うと、免疫細胞が作られにくくなり、がん、肺炎、うつ病などの原因になると指摘しています。
また、現在の人間ドック学会のLDLコレステロールの数値基準では59以下と180以上を要治療としている一方で、日本動脈硬化学会では140以上を高LDLコレステロール血症と定義しており、基準値が揺らいでいます。
このように、日本の学会ですら、基準値が違うのですから、基準値だけで議論するのには限界があります。
いずれにしても、心筋梗塞の少ない日本で、やたらにLDLコレステロールを下げなくてもいいというのが現実的な落とし所のように思います。
血圧もLDLコレステロールも極端に高ければ、下げたほうが長生きすることは間違いありません。
問題は、基準値より少し高い場合です。そんな場合は、糖尿病などの他の病気があるのか、家族に心筋梗塞や脳卒中の人が多いのかなど、様々な視点から考えていく必要があります。無理に基準値になろうとするのは、かえって良くないのです。
基準値より少し高いからと言って、すぐに薬を飲む必要はありませんが、かといってコレステロールや血圧を気にしなくていいというわけではありません。血圧がすごく高くて、どうしても薬を飲む必要があるなら、飲むほうが長生きにつながるはずです。
自分の生き方と、病気の治療のメリット、そうしたことを十分に考え、自分にとって何がベストかを選択していく問題になってきます。
たとえば、「塩辛い味付けの料理こそが、人生にとってかけがえのないものだ」と言うのならば、血圧が上がりやすいでしょうから、やはり薬を飲んでいくほうがいいでしょう。これは極端な例だとしても、そのような柔軟な考え方で、無理のない持続できる治療を選択すべきでしょう。