健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

長生きしたけりゃ激しい運動はするな?――医者が勧めるテキトーな運動法

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なぜ運動はからだにいいのでしょう

運動は健康にいいんだろうな、そんなふうに誰もがよくわからないまま、なんとなく考えているようです。とはいえ、運動にはそれなりに「医学的な」意味があります。

まず、運動をすることで骨に負荷が加わり骨を作る細胞が刺激されるため、骨が強くなります。それに加えて、からだのなかで最も早く老化するのは筋肉と言われていますが、運動によって筋肉の量も増えます。転倒による骨折というのは高齢者を悩ませる心配事のひとつですが、筋肉がしっかりすれば、ふいに転倒してしまうことも防ぐことができるでしょう。

運動は、骨や筋肉にいいだけではありません。日々の疲れへの対策としても非常に効果的です。運動をすると、肺から活発に酸素を取り入れて心臓を速く動かすことになるので、心臓の筋肉が強くなります。それによって全身の血行がよくなり、酸素や栄養を、からだの隅々まで早く運べるようになるので、疲れやすさも軽減されるのです。

さらには、生活習慣病にも効果があります。たとえば、生活習慣病のひとつである脂質異常症は運動で改善します。また、運動をすると善玉(LDL)コレステロールが増えるので動脈硬化の予防になり、心筋梗塞、脳梗塞などの予防効果が生まれます。

脳にとっても、運動は有利に働きます。からだを動かすと脳へ行く血量が増え、脳の神経を成長させるBDNF(脳由来神経栄養因子)というタンパク質が海馬(記憶を司る部分)で多く分泌されます。それが記憶力の改善に役立つと考えられています。そのために運動は認知症予防になるのです。

運動によって心も変わってきます。適度な運動をすると、気分が明るくなり、前向きに考えられるようになります。これはセロトニンという脳内物質が増えてくるからです。

このように運動は、骨、筋肉を状態を良くし、疲れを軽減し、生活習慣病の予防にもなるだけではなく、脳にも心にも非常にいい効果をもたらします。そんなわけで、運動は健康維持の基本と言えるものなのです。

スポーツ選手は長生きしているでしょうか?

では、運動すること自体を生業としているスポーツ選手は長生きしているでしょうか? 従来は、過激な運動をすれば寿命が短くなるということで、アスリートの寿命は短いと言われていましたが……しかし最近の研究では、トップアスリートは一般の人より長生きするという研究も増えてきました。

14の研究を比較した論文によれば、長距離走や水泳、サッカーなどのアスリートの寿命は長くなりますが、野球やアメフト、ラグビーなどのアスリートの寿命は長くなる傾向は見られませんでした。つまり、有酸素運動の場合寿命にプラスに働きますが、無酸素運動が多いスポーツは寿命には影響がないようです。 

1896年のアテネ五輪から2010年のバンクーバー冬季五輪まで、メダルを獲得した9カ国の1万5174人のトップアスリートとそれらの国々の平均寿命を比較した「British Journal of Sports Medicine」という論文があります。その研究が示したのは、どうやらスポーツには長生きにつながるものと、寿命を短くするものあるいは寿命に関係しないものがあるということ。端的に言えば、無酸素運動のスポーツより「有酸素運動と無酸素運動が混じった競技」のほうが生存率が高かったということでした。

運動はからだにいいようですが、トップアスリートという選び抜かれた人たちと、一般の人を比較することにやや無理があると思います。また、いくらスポーツ選手でも、引退後どう過ごすかで寿命は違ってくるでしょう。そうではあるものの、短距離競走のような無酸素運動より、球技スポーツのように有酸素と無酸素運動が混じったほうがからだにいいということは言えると思います。

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プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界で一番受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。推理作家協会会員。

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