健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

最近、もの忘れ増えたかも?――認知症にならないためにすべきこと

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記憶力を鍛えることはできるか

結局、もの忘れは油断はできない面をもった症状なのでしょう。では、記憶力を鍛えることでそれに対処することはできるのでしょうか。
結論から言えば、記憶力は鍛えることができません。
記憶力自体は持って生まれた才能であり、異常に記憶力のいい人、つまり受験勉強には有利な人と、普通の記憶力の人との差は、いくら努力をしても、基本的な差は埋まりません。記憶力のいい人が1回で憶えてしまうことを、10回やって憶えていくしかありません。
ただ、記憶術というのはあります。決められた時間内に100個のことを記憶するには、語呂合わせをしたり、脳の中に描いた家の中にあるものに憶えるものを紐付けしたりして、思い出せるようにします。しかし、これはあくまで短期的な記憶方法であって、普段の記憶力をよくする方法ではありません。

もの忘れが始まったらやるべきこと

繰り返しになりますが、もの忘がひどくなってもそれが認知症とはかぎりません。まずそこを理解しましょう。また仮に認知症だとしても、軽度認知症にはいろいろな原因があり、すべてがアルツハイマー型認知症ではありませんし、軽度のうつ病で起きているものなら、治る可能性もあります。

だから、まずは医師に診てもらうことです。受診する診療科は、神経内科、老年科、もの忘れ外来、精神科などです。すぐに病院に行かなくとも、普段かかっている医師のところで、認知症のテストをしてもらえれば大丈夫です。

アルツハイマー型の認知症と診断されたら、残念ながら、よくなることはありません。進行していきます。
だからこそ、軽度認知症のレベルでなんとか踏みとどまることが重要です。それには、普段から脳にいい生活していくしかありません。一番重要なのは、生活習慣病の治療です。高血圧症、糖尿病、脂質異常症は認知症のリスクです。これらの病気をしっかり治療していくことが大切です。
嗜好品として喫煙、飲酒はやはり脳の健康には不利になります。思い切って禁煙、禁酒してみましょう。

ここでも何度か述べてきましたが、やはりからだを動かすことで脳を活性化できます。規則的な運動というと面倒で続かなくなるので、日常生活の中で立っている時間を増やすだけでも脳を刺激できます。
さらに新しいことへの挑戦が脳を元気にします。新しいことと言っても人によってレベルが違います。ピアノを弾ける人なら、新曲やコンサートに挑戦すべきでしょうし、ピアノが弾けない人は自分流でいいので、ピアノを弾けるように挑戦するのもいいでしょう。

大切なことは、自分にあった目標を立てて、続けていくことです。もの忘れは年齢のせいにしがちですが、日常生活に刺激がなくなってきた結果でもあるのです。
もの忘れが気になり始めたら、すこし刺激を求めた生き方に切り替えることで、現状維持が可能であるし、諦めるのはまだ早いのです。

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プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界で一番受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。推理作家協会会員。

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