【注目】「私」から「僕」に言い換えた大谷翔平、水原一平元通訳問題はなぜ「会見」でなく「声明」だったのか?元新聞記者が解説

2024.03.27 Wedge ONLINE

 大谷選手は今回、声明という形を取り、手元のメモに目を通しているものの、状況をしっかりと把握し、正確な情報発信に努めていることが、この部分から見て取れる。

 それは、「私が」と言った後、「僕にですね」と言い換えている点だ。直前に、「僕の代理人」、さらに「僕にですね」の後に水原氏や某友人など複数の人物が登場する中、「私」が誰かを明確にしている。ただ単にメモを読み上げているのではなく、状況をしっかりと把握した上で、誤解のないように事実を伝えようという意図が伝わってきた部分だった。

 また、「一平さんは取材依頼(メディアからの連絡)のことも、僕にはそのときには伝えていなかったですし、チームにも、代理人の人たちに対しても、僕はすでに彼と話して、コミュニケーションを取っていたっていう嘘をついていました」と明かし、水原氏が大谷選手や周囲に対して、虚偽によって情報操作を行っていたことも明らかにした。

 大谷選手は、水原氏の違法賭博による借金と自身の口座から返済のための送金がされていたことなどを初めて知った時期として、「韓国の第1戦が終わった後に行われたチームミーティング、試合の後のチームミーティングのときです」と明かした。

 その上で、「(水原氏が)ホテルに帰った後で、二人でより詳しいことを、二人で話したいので、今は待ってくれというふうにいっていたので、僕はまずそのときはホテルまで待つことにしていました。その後、試合後ホテルに戻って一平さんと初めてそこで話をして、彼に巨額の借金があることをそのとき知りました。そして、彼はそのとき私に僕の口座に勝手にアクセスして、ブックメーカーに送金していたということを僕に伝えました」。

 大谷選手は、信頼していた水原氏の裏切りに対して、「僕はやっぱりおかしい、これはおかしいなと思って代理人と話したいということで代理人たちを呼んでそこで話し合いました」とすぐに対応を取ったという。急転直下の解任劇の舞台裏で、大谷選手が水原氏と2人だけの話し合いではなく、情報を代理人などと共有したことで事態が動いたということも判明した。その後、違法性の捜査については、警察当局に引き渡すということになっているということと、今後の対応も弁護士に任せるとしながら自らも警察当局に協力する姿勢も明確にした。

質疑応答をとらなかった理由

 メディア対応は通常、質疑応答の形式を取る記者会見、取材対象者を多くの記者が囲んで質問する囲み取材が取られることがある。質疑に応じない場合には、談話やコメントという形を取ることもある。

 今回、大谷選手は声明という形で質疑応答には応じなかったものの、自らの口で公の場で状況を可能な範囲で説明したといえる。

 ただ、質疑がなかったことで疑念が残ったのは、違法賭博の胴元に対し、水原氏がなぜ大谷選手の口座から送金できたのかという点である。

 大谷選手の代理人が主張するように「大規模な窃盗」が成立した背景には、高額年俸を手にする大谷選手の資産管理への甘さを指摘する声もあるだろうが、一方で、アクセス手段が違法は犯罪行為であれば、それを防ぐことまで管理能力として求めることは酷にもうつる。

 どういうプロセスで送金したのかは、捜査の過程でいずれ明らかになることである。大谷選手もこの点に関しては「現在進行中の調査もありますので、きょう話せることには限りがあるということを理解していただきたい」と述べている。

 もしも、会見形式で行われていれば、大谷選手と水原氏の具体的なやりとりなどの詳細がわかったかもしれないが、この時点で、最も重要なことは、大谷選手が今後のシーズンへ向け、あるいはオープン戦で出場を続ける中で、違法行為に対する「潔白」を明らかにすることであり、このことは声明から十分に伝わっている。この時点での説明責任を果たしたと言えるのではないだろうか。