〈ASEANが分裂する日〉中国寄りか?米中バランスか?分かれるスタンス、日本は何をすべきなのか

2025.10.28 Wedge ONLINE

 Lowy研究所副所長のスザンナ・パットンが、Foreign Affairs誌のウェブサイトに9月25日付けで掲載された論説‘The Two Southeast Asias’において、近年の米中対立の国際環境の中で、東南アジア諸国連合(ASEAN)が大陸の諸国と海洋の諸国の間で分裂する傾向を見せ始めていると論じている。要旨は次の通り。

(Ekaterina Grebeshkova/Marina Novitkaia/gettyimages)

 欧米では東南アジアを一体的な地域とみなす傾向があるが、実際には政治体制や地理、経済水準などが大きく異なり、分断は根深い。

 現在、東南アジアは二つのネットワークに分かれている。カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムが「大陸グループ」を形成し、中国寄りの傾向を強める。

 一方、インドネシア、マレーシア、シンガポールは「海洋グループ」を構成し、相互の連携が強く、米中間でバランスを取っている。フィリピンは独特で、域内連携が弱く米国依存が大きい。

 今後、両グループ間の溝は拡大し、大陸東南アジアは中国の勢力圏に組み込まれる可能性が高い。米国にとり、この二極構造の中間に位置するタイとベトナムとの関係強化が戦略上重要となる。

 歴史的に中国と大陸東南アジアを隔てていたのは険しい山岳地帯だった。長らく中国の膨張を阻んできたこの地理的障壁は、21世紀には道路・鉄道・経済特区整備によって克服された。中国は一帯一路構想のもと、大陸グループとの接続を強化している。

 伝統的に警戒的だったベトナムも、米中摩擦を背景に中国企業の投資が北部で急増し、経済的関係を深めている。一方、海洋東南アジアでは中国との直接的な一体化は進んでいない。海洋諸国は地理的に開かれ、南シナ海やマラッカ海峡など世界貿易の要衝を押さえているため、世界の多くの国々との協力を進めている。

 中国は南シナ海を「九段線」を引いて支配しようと試みたが、2016年の国連海洋法裁判所の判決でその主張は退けられた。以後、英国を含む多くの国がその判決を支持し、南シナ海の航行の自由を確認している。

 海洋諸国は経済規模が大きく、自由な貿易がその国際貿易に不可欠であるため、ASEAN以外の多くの諸国からの投資や安全保障協力を引きつけている。2017年以降、西側諸国と東南アジア諸国との新たな防衛協力の多くは、海洋諸国とベトナムを対象としている。

 海洋諸国は中国による排他的経済水域への侵入の脅威にさらされており、米国やその同盟国(日本・豪州など)との安全保障連携を強化している。米国はフィリピンとの軍事演習を通じ「第一列島線」へのアクセスを維持し、中国の圧力に直面するフィリピンへの支援を拡大している。

 今後も東南アジアの二極構造は続くとみられる。海洋諸国は引き続き世界の多くの国々との関係を維持し、中国が最大の影響力を持つとしても、米国・豪州・インド・日本などの存在が均衡をもたらす。一方、大陸諸国は中国の事実上の勢力圏に近づく可能性が高い。

 米国にとり、鍵を握るのはベトナムとタイである。米国がベトナム・タイとの協力を深めれば、海洋東南アジアの開放性を維持し、中国の地域支配を抑制し、インド太平洋全体での利益を守ることができるだろう。

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一朝一夕では解決できない米国の課題

 歴史を振り返れば、1990年代初頭の冷戦終了の波は東南アジアにも及び、東西対立の構造が崩れるに従い中国共産党浸透の脅威が希薄になり、世紀が変わる前にASEANはインドシナ諸国を迎え入れて拡大を果たした。世界に新たな対立が復活した昨今、その構造に亀裂が東南アジアに復元するのは、ある意味で歴史の必然であるのかもしれない。