米国務省やホワイトハウスはコメントを控えているが、米国は、ウクライナのロシア本土攻撃において、製油所を含むエネルギーインフラを標的とする作戦に対し、インテリジェンス・情報面での支援を行っている可能性が高い。
このロシアの製油能力を減退させるウクライナのドローン攻撃は、ロシアを二つの側面から揺さぶる効果がある。
一つ目は、ガソリン供給の不足と価格の上昇だ。ドローン攻撃された製油所の稼働停止により、ガソリンの供給不安が顕在化しており、9月25日付の露紙コメルサントは、ロシア全体の1.6%に相当するガソリンスタンド360軒が閉鎖を余儀なくされたと報じている。特にケルチ海峡経由のロシア本土からの輸送に頼るクリミアやセバストポリといった南連邦管区でのガソリン不足は深刻で、クリミアでは10月1日から個人のガソリン購入を20リットル上限とする配給制が導入されている。
ロシア連邦国家統計局のデータによれば、ガソリン価格は2月以降で9.5%上昇し、ディーゼルも3%以上値上がりした。これに伴い、ロシア政府はたまらず、全てのロシア企業を対象として、年末までガソリンを輸出禁止とした。さらに、ディーゼル燃料、船舶燃料やその他軽油についても、トレーダーや生産能力が年間100万トン未満の小規模製油所を対象として、輸出禁止する措置を発動している。
筆者は、今年10月初旬にロシア極東ウラジオストクを訪問する機会があり、ガソリンスタンドの混雑度合いを注意深く観察したが、大行列というものは見られなかった。ウクライナ国境から直線距離で約6500~7000キロメートルに位置するウラジオストクにウクライナのドローンが飛来する心配がある訳でもなく、事態は落ち着いているように見えた。
もっとも2025年9月時点でのロシアのインフレ率は8.0%と高水準で推移しており、ガソリン価格のさらなる値上がりがロシア人の一般家計に打撃を与えていることは確かといえる。また、ロシアの国営テレビ(ロシア24やチャンネル1)はロシア製油所の被害拡大を抑制して報道しているようであるが、テレグラムやSNSを通じて、ドローン攻撃によって炎上するロシアの製油所の映像を確認することは可能で、さらなる製油所への攻撃により、ロシア市民の間に不安や動揺が広がる展開もあるだろう。
二つ目は、ロシアの石油関連歳入への影響である。ロシア財務省のデータによると、今年8月時点において、ロシアの歳入に占める石油ガスの割合は25.4%。ロシアのエネルギーセクターに対する欧米制裁による影響があるとはいえ、依然として最も大きな歳入源となっている。
この歳入は、主にロシアのエネルギー企業が支払う鉱物資源採掘税等の税収によって構成されるため、ドローン攻撃により稼働率が低下した製油所への原油供給が減り、ガソリン輸出が禁止されても、海外への原油としての輸出が拡大すれば、歳入への大きな影響はないように見える。
しかしながら、ここにきて大きく事態を変えうる米国制裁が発動された。トランプ政権は10月22日付で、ロシア最大の石油会社ロスネフチと同第二位のルクオイルを特別指定国民(SDN:Specially Designated Nationals)に指定した。SDN指定された法人は、米国での資産凍結や米国人との取引禁止という制裁が科されるのに加え、「重要な取引」を行った第三国の法人も米国制裁の域外適用(いわゆる「二次制裁」)となり、影響が大きい。