〈サンフランシスコ現地ルポ〉無人タクシー「Waymo」が行き交う街、AIは人間を超え、人間はAIを信頼するのか?乗車体験し考えたこと

2025.12.12 Wedge ONLINE

 先日、数十年ぶりに米西海岸サンフランシスコと学術都市でかつての留学先だったカリフォルニア大学バークレー校周辺を再訪した。9日間のセンチメンタル・ジャーニーだったが、どちらもIT革命発祥の地シリコンバレーとは指呼の距離だけに、市街地では無人タクシーが本格的に走り回り、バークレー・キャンパス内の学生ホールでは、工学部主催で世界各国の中学・高校生がそれぞれ自分たちで製作したロボットを持ち込んで競い合う「国際サッカー試合」が開催中だった。

街中を日常的に走る無人タクシー「Waymo」(Sundry Photography/gettyimages)

頻繁に行き交うWaymo

 「AI先進都市サンフランシスコ」――。国際空港に降り立ってすぐに”異変“を感じたのは、ターミナル内の不気味なほどの静寂さだった。

 海外からの大勢の乗降客が出発カウンター、通関出入口を行き交う中、広々としたロビー、乗降口までの長い通路一帯では、日本で聞き慣れた搭乗ゲートや各エアラインの発着予定時間を知らせるかん高いアナウンスなどは一切ない。目に留まったのは、音もなく刻刻と変化する掲示板の数字や文字の点滅だけだ。

 ほとんどの利用客は、歩きながら自分のスマホで最新情報を入手しており、掲示板前に立ち止まる人すらまばらだ。

 レンタカーで市中心部に向かう混雑した公道でさらに驚かされたのは、天井から突き出た風車のようなレーダーを回転させながら走る奇妙な形のタクシーが何台も行き交う風景だった。昨年からサンフランシコ、ロサンゼルス、フェニックス、ラスベガスの一部都市で商業用に本格スタートしたばかりの自動無人運転タクシー「Waymo(ウェイモ)」だ。

 中でもサンフランシスコでの普及ぶりはめざましく、すでに1000台以上が市内を走行しており、今年5月だけで利用客は13万5000人、1日平均4300人に達しているという。1台当たりの出動回数も平均14回と多忙だ。

落とし物にも対応

 翌日、早速、「Waymo」での行動を開始することにした。

 と言っても、ITやAIの時流に乗り遅れた私たち夫婦では勝手がゆかず、東海岸から一時休暇で合流してくれた次男にすべてを任せることにした。

 逗留先の一時借家にレンタカーを置き、玄関先でスマホの専用アプリに「出発地」「出発時間」「目的地」を打ち込む。市中心部から車で30分ほどの閑静な住宅街だったが、5分後には一時停車のライトを点滅させた指定の「Waymo」がスーッと姿を現した。

 「Hello, welcome!」――。車内のAIシステムが利用者本人であることを確認すると、ドアがアンロックされ、乗り込んで「シートベルト装着」の表示に従うと自動ロックされる。「ようこそ!」のアナウンスとともに座席前の「始動」ボタンを押し、ギアが切り替わり、いよいよ発車だ。

 定員は前部補助席1人、後部座席3人の4人乗りで、運転席に乗ることは許されず、ハンドルに手を触れることも「厳禁」とされている。

 イージー・リスニングの心地よい音楽が車内に流れ始める間もなく、縦列駐車の路肩からするりと一般道路に出て、住宅街を制限スピード範囲内で静かに走り抜け、時速60キロ前後の片側3車線の広い公道に入った。

 走り出すと、座席前の大き目の電光スクリーンに通過地点の現在位置、現時点の走行距離、途中の道路の混雑状況、「目的地」までの距離、到着予定時間が秒刻みで表示されるので、不慣れな旅行者にとっては便利この上もない。

 ほどなく車中で、助手席の次男が床部に落ちていた他人のクレジットカードを発見。運転手はおらずどこに届け出るべきが、ここは思案どころだ。