高市首相が語る「強い経済」の真意とは?書き下ろし書籍で見せるリスク回避と成長持続の方策 『日本の経済安全保障 国家国民を守る黄金律』(高市早苗著 飛鳥新社)

2025.11.10 Wedge ONLINE

気を付けるべき中国法と米国法

 民間企業にも関わる重要なものとして経済安保版の「セキュリティ・クリアランス制度」の必要性について言及しているのも特徴である。これは、国家における情報保全措置の一環として、信頼性の確認(適正評価)を行って情報を漏らす恐れがないと認められた者、つまり「セキュリティ・クリアランス・ホルダー」が重要情報を取り扱う制度のことをさす。

 厳格な情報管理や提供のルールを定め、情報の漏洩や不正取得した場合の罰則を科すことが通例とされているが、これに対して日本のビジネス界からは切実な要望がある。日本では防衛装備品を製造する企業以外でも、軍事転用可能な民生技術を持っている企業や技術者が多いことから日本企業が外国政府の調達に参加しようとする場合、セキュリティ・クリアランスを保有していないと説明会に参加できなかったり、必要な情報が提供されなかったりして、貴重なビジネスチャンスを逃す事態が起きていると本書は指摘する。この点について高市氏はこう記す。

 経済安全保障を巡る環境が厳しさを増すなか、今後こうしたケースは、さらに増えるだろう。日本人従業員の信頼性の確認を、相手国企業からの指示、あるいは第三国の調査会社の調査にすべて委ねるということが続いてはいけない。
 

 このほか本書で注目されるのは、外国法制度のリスクについての言及である。例えば中国は、日本の主要貿易相手国であり、わが国のみならず各国のサプライチェーンに強い影響力を持ちつつ、多数の研究者や留学生を世界各国に送り込んでいる。

 中国の『会社法』は中国共産党組織の活動に必要な情報を提供しなければならないと規定している。これは重要な情報が流出する可能性があることを意味する。このほか人材のリクルートを通じて、日本企業を定年退職した技術者やマネジメント人材を高額な年俸を提示して雇い、技術やノウハウを吸い上げている可能性もあり、こうした問題意識についても記す。

 さらに本書では逆に中国を制する米国法についても日本企業は留意する必要がある点を指摘する。例えば日本企業が米国連邦通信委員会(FCC)の認証禁止対象となっている中国企業からのOEM(相手先ブランドによる生産)で供給を受けた電子機器をアメリカに輸出する場合、ブランドやラベルが変更されたとしても認証禁止の対象になるので注意が必要だという。

 さらに、中国企業によるデータセンターの建設投資が日本国内で拡大している点についても懸念を示し、リスクを明確にする必要があるという以下の指摘も的を射ている。

 「情報流出」「クラウドの意図的な誤作動を通じた社会的混乱」「日本のサーバの接収」「日本のクラウド事業者の競争力喪失」など、リスクは大きいと考えている。
 

首相として何を実行するか

 本書を通じて著者は、日本の国益を保持しつつ、世界に伍して戦う経済の実力を維持・強化していくために、経済安全保障上のリスクを回避する方策をとるべきだという強いメッセージを発信している。本書に詰まっているのは現在の日本への警鐘であり、真に強い日本を作るためには取れる対策はしっかり講じておくべしという指針を示す。

 高市氏が首相在任中にどれだけの成果を上げられるかは、今後の手腕次第である。強い経済の力を持つ国家の姿はいかにあるべきか、リーダーが指導力を発揮することでその道筋を示してくれることを期待したい。本書は2024年夏の刊行だが、高市新首相の誕生のタイミングで幅広くビジネスパーソンに読んでもらいたい一冊である。