今回のように平和的で一見静かに行われたデモであっても、抗議とレジスタンスの行動であることには変わりない。それが、ただちにトランプ政権の政策変更につながるわけではないが、街頭での『集団的アイデンティティ』を呼び起こし、やがて選挙に向けた政治行動へと発展する可能性を秘めている」
さらに、カリフォルニア大学アーバイン校社会学部のデイビッド・フィッシャー教授も「社会運動が直面する課題はつねに『その後』だが、今回の各地における『NO KINGS』集会ではすでに、直近の民主党予備選、数週間後に迫っていたバージニアやニュージャージー州知事選などが話題になり始めていた」として、さらに1年後に迫った中間選挙への影響必至との見方を伝えている。
実際、フィッシャー教授が言及した通り、その後、今月4日に投開票されたバージニア、ニュージャージー両州知事選では、「トランプ圧政」を厳しく批判していた民主党候補がいずれも勝利を収めた。また、全米最大票田州のカリフォルニア州でも同日、共和党が猛烈に反対していた選挙区割改変の是非を問う住民投票が実施され、賛成多数で承認された。
この結果、来年中間選挙に向けて同州選挙区割りが一部書き換えられ、下院民主党候補の当選者が「4~5議席」増となる公算が大きくなった。
民主党全国委員会(DNC)は、とくにバージニア、ニュージャージー、カリフォルニア3州におけるこの日の投票結果を注視していただけに、いずれも勝利したことを「中間選挙に向けてわが党に弾みをつける重要な動き」として高く評価している。
一方、共和党著名ストラテジストのスティーブ・バノン氏は「わが党は事態を深刻に受け止め、中間選挙での大敗回避の対策を急ぐ必要がある」と警告している。
このほか、「静かな意思表示」(フィッシャー教授)が「変革」をもたらした直近の具体例として挙げられているのが、ABCテレビの人気コメディアン、ジミー・キンメル氏の突然の番組降板騒ぎだった。
キンメル氏は去る9月10日、過激な青年右翼活動家として知られ昨年大統領選でトランプ氏を熱烈支持したチャールズ・カーク氏射殺事件に関連して、直後の自分の番組の中で「右翼の一味たちは事件を最大限利用して自分たちの政治的正当性を売り込もうともがいている」などとコメントし、トランプ大統領はじめ共和党保守派の怒りを掻き立てる結果となった。
大統領はただちにABCテレビの社長を電話で呼び出し、キンメル氏のコメディ番組の「即時中止」を求めたほか、大統領の意を受けた連邦通信委員会(FCC)もテレビ局の認可取り消しまでほのめかすなどしたため、テレビ局側も同月17日、同氏の「無期限降板」を発表した。
ところがその後、高視聴率を維持してきた番組の突然の中止を知った全米の多くのファンの間で「政権による言論・表現の自由の弾圧だ」などとして抗議の渦が沸き起こり、その矛先は親会社である「Disney」社にも向かった。
インターネット・メディア「Huff Post」などによると、Disney社が運営する二つのネット・ストリーミング・サービス受信契約のキャンセル件数は、数日間でまたたくまに500万件以上にも達した。
結局、こうした予想もしなかった反応に衝撃を受けたABCテレビは、1週間後に「キンメル・ショー」の番組再開を余儀なくされた。
一挙に広がったこのボイコット運動は、良識派のハリウッド俳優たちが視聴者に呼びかけたとされるが、一般市民の不平や不満はSNSが普及した今日、短時間のうちに政治的意思表示や具体的行動にもつながる可能性を秘めていることを示している。
ただ、トランプ氏がこうした声に耳を貸すかどうかは、はなはだ疑問だ。