「このような全米規模の抗議集会は初めてであり、疑いもなく“政治的脅威”だ。われわれは今後の影響について真剣に受け止めなければならない。そこには大変なエネルギーが存在し、怒りの盛り上がりが感じられる。(中略)わが政権に反対する勢力がその怒りを吸い上げてこれほど多くの一般大衆を動員できたとすれば、来年の中間選挙や2028年の大統領選挙はわれわれにとって危ういものになりうる」
「エネルギーにあふれた有権者は、必ず選挙の際に投票所に足を運ぶ。そして私が心配するのは、これまではトランプの再選に満足し、その後の政治参加にはあまり関心を示さない共和党系の有権者がいるのに対し、多くの一般有権者たちが意欲的に投票行動に出るとすれば、われわれに悪い選挙結果をもたらすということだ」
クルス議員がトランプ政権を正面切って批判したのは、これが初めてではない。去る4月には、大統領が諸外国相手に大々的に打ち出した高関税政策について「このような貿易戦争は必ずや、国内に多くの雇用喪失を招き、結果的に26年中間選挙でわが党の惨敗を引き起こすことになる」と警告を発している。
同議員のみならず、共和党一部下院議員の間でも、「NO KINGS」の今後の影響を気にかける声も出始めている。
その一つの理由として、従来型の反政府集会と異なり、今回は、全米の大都市のみならず、ノースカロライナ州ブライソン(人口1500人)、アイオワ州ストームレーク(1万人)、ルイジアナ州ハモンド(2万1000人)、ケンタッキー州リッチモンド(3万5000人)といった、ふだん政治とは無縁とみられる小都市、町村、しかも共和党地盤の地方にまで広がったことが挙げられるという。
この点に関連して、トランプ氏の1期目の大統領就任式翌日の17年1月21日に首都ワシントンで行われた女性たちの大規模抗議デモ「Women’s March」が翌年の中間選挙に与えた影響について、一部メディアで報じられている。
当時の集会は、トランプ氏が選挙期間中から女性蔑視の言動を繰り返してきたことをきっかけに、「男女平等の尊重」「女性の権利の向上」「健康保険改革」「環境保護」などを求めて組織的に行われたもので、約47万人近くが連邦議会からホワイトハウスに通じる目抜き通りをデモ行進した。
同時に、全米の約400都市でも集会やデモが繰り広げられ、参加者は合わせて数百万人規模に達した。
そして翌年18年中間選挙では、上院は共和党がかろうじて多数を維持したものの、下院では民主党が逆転して40議席増となり、多数を制した。各州知事選でも民主党知事が新たに7人誕生したほか、州議会でも民主党支配下の州議会を4州増やす結果となり、民主党のシンボル・カラーである“ブルー・ウェーブ”(青い波)の選挙とも呼ばれた。
当時、民主党が中間選挙で健闘した理由について、「Women’s March」をきっかけとして女性たちの政治意識が高まり、そのまま翌年選挙投票日の女性票増加につながったことがひとつのカギとなったといわれている。
社会運動と選挙との関係に詳しいブルッキングズ研究所のダナ・フィッシャー上級研究員は、「ヤフー・ニュース」とのインタビューで当時を回想し、次にように語っている:
「自然発生的な大規模なデモや集会は、時として政治的な活動へと発展することがある。まさに17年の『Women’s March』がそうであったように、それをきっかけとして移民政策、老齢年金削減措置、人権抑圧などに関する政治的主張や要求、ボイコット運動、さらには市、州議会議員、連邦議員への立候補へと拡大していった。怒りや熱意が街頭の行動から中間選挙時の投票所へと駆り立てた。