トランプ政権は、ウクライナ停戦に関する交渉の中でしばしばロシア寄りの姿勢を示しており、最悪の場合、欧州諸国は米国がウクライナ支援を停止する可能性も視野に入れなくてはならない。グリーンランドをめぐるNATOの内紛で最も喜ぶのはロシアのプーチン大統領だ。
トランプ大統領が一時「グリーンランド併合のために武力行使も辞さない」と発言したことは、1949年に創設されたNATOが経験する最大の危機だ。
デンマークのフレデリクセン首相は1月6日、「米国がグリーンランドを占領するために武力に訴えたら、それはNATOの終焉を意味する」と語った。欧州諸国に対し、グリーンランドに戦闘部隊を常駐させるよう求めている。
だが欧州では、トランプ大統領の発言が同盟国の結束に与えた傷は、もはや治せないという意見が強い。ドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)は、1月21日付の紙面の社説で、「トランプ大統領は、NATOという軍事同盟の信頼性に、修復不可能な損害を与えた。NATOは、外敵からの攻撃に対して自らを防衛できるが、内部の敵による攻撃から身を守ることはできない」と指摘。「欧州は、米国に対する依存度を減らさざるをない」と警告している。
欧州諸国は第二次トランプ政権が発足して以来、米国に対する疑念を強めていたが、グリーンランド問題で不信感は頂点に達した。トランプ大統領にとっては、米国の領土を拡張した大統領として歴史に名を残すことの方が、NATOの結束よりも重要なのだ。
トランプ政権が昨年12月に公表した安全保障戦略の中でも、米国がロシアを封じ込めるべき敵国とは見ておらず、むしろEUと欧州諸国の現在の政権を嫌悪し、侮蔑していることが表れていた。つまり、欧州諸国にとって最も重要な「保険」である、集団的安全保障の原則(一国が攻撃された場合、他の国は自国に対する攻撃と同列に見なして、攻撃された国を支援する原則)が揺らいでいる。
米国に対する不信感を反映して、ドイツでは欧州独自の核抑止力について、議論が行われている。
EU加盟国の中で核兵器を保有しているのは、フランスと英国だけだ。マクロン大統領は、25年3月に、条件が整えば、フランスの「核の傘」を他の欧州諸国と共有する準備があると語ったことがある。「条件が整えば」という表現は、フランスの核の傘を維持する費用について、他国が応分の負担を行うという意味だ。
当時ドイツの首相だったショルツ氏(SPD)はこの提案を黙殺した。彼はハト派として知られる。
だがSPDで安全保障問題を担当するズィームティエ・メラー議員は、ドイツの日刊紙ハンデルスブラットの1月16日付電子版とのインタビューの中で、「欧州共通の抑止力を持つ上で、フランスと英国の核戦力を、どのように使うべきかについて、真剣に話し合うべきだ」と語った。
キール大学安全保障研究所のヨアヒム・クラウゼ元所長も、「トランプが大統領である限り米国は信頼できないので、我々は欧州独自の核抑止力について、議論を行うべきだ。英仏の核戦力を大幅に増強して、ドイツなど他の欧州諸国が費用の一部を負担する代わりに、核兵器の運用についての共同発言権を持つという方式が考えられる」と、欧州独自の核シェアリングを考えるべきだという立場を打ち出している。
今回のダボス会議では、混沌とした闇夜に一筋の光明を投げかけるような出来事があった。
それは1月20日に、カナダのマーク・カーニー首相が行った演説である。彼は、「現在我々が世界で経験していることは、世界秩序のtransition(変化)ではなく rupture(断絶)だ。米国が先頭に立った、ルールに基づく世界秩序は戻ってこない。過去に対してノスタルジーを抱くことは、戦略ではない」と指摘した。