彼は1978年に社会主義時代のチェコスロバキアで反体制派だったヴァーツラフ・ハベル(1989年から1992年まで同国の大統領)の「無力な者の力」というエッセーを引用し、「力がない者にできること、それは現実をありのままに語ること。体制の嘘を受け入れずに嘘と言うことだ。全ての市民が、体制の嘘を名指しし、嘘を受け入れることを拒否すれば、その体制は崩壊する。今や、嘘を嘘と言うべき時がやってきた」と語った。彼はトランプ氏を名指しすることなく、彼にいつまでも盲従することの危険性を指摘した。
その上で、「大国が法律や規則を守らず、他の国々を力や金によって従属させようとしている世界で、カナダのような中規模国(ミドル・パワー)がするべきことは、現実を直視し、外交関係を多角化することだ。そのため我々は中国やカタールとも協議している。カナダは世界秩序の変化を早い時期に察知し、米国だけに頼らない国を作るために必死の努力を続けている。EUとの関係も深めている。各国がそれぞれ要塞を築くよりは、協力した方が良いに決まっている。そして我々の行動を導く指針は、人権擁護、自由、持続可能性などの価値観に基づく現実主義(value-based realism)だ。この道をカナダと一緒に歩みたいと思う国は大歓迎だ」と述べた。
演説後、聴衆はスタンディング・オベーションで賛意を表した。X上には、カナダ人だけからではなく世界中の政治家、言論人たちから「ここ数年間に世界の政治家たちが行った演説の中で、最も感銘を与える演説だった」という賛辞が溢れた。
「カーニー首相は、ポスト米国時代の新しい価値共同体を率いるべき指導者だ」という言葉もあった。深い思想性に支えられたこの演説は、カーニー・ドクトリンとして歴史に残るだろう。
現在欧州やカナダが直面する苦悩は、日本人にとって対岸の火事ではない。日本は防衛・貿易において米国に大きく依存している。
しかしグリーンランドをめぐる論争は、パックス・アメリカーナ(米国による平和)の終焉をはっきり示した。この論争でトランプ政権がNATO諸国に対して取った態度は、米国に100%依存することの危険性を示している。
日本はもはや経済大国ではなく、カナダやドイツと同じミドル・パワーである。今こそ日本は、カナダやEU加盟国が模索しているように、中国、米国などの覇権国家から健全な距離を置く防衛政策、経済政策を探るべき時代にさしかかっているのではないだろうか。