79年イラン革命時、MKOは革命勢力の一角を担ったが、イラン・イラク戦争では、イラク側に立ってイランを攻撃するに至り、イラン本国では「偽善者たち」と呼ばれるようになった。現状、多くのイラン国民はカルト化したMKOに嫌悪感を抱いており、同組織がイラン体制に代わる新たな受け皿となることは、国民感情や勢力を考慮しても、想定されない。
小括すると、イラン国民が現体制を満場一致で支持しているわけでは決してないが、かといって体制打倒に向けた熱気が国民の間にあるわけではなく、またそれを支持する外国のスポンサーがいるわけでもないことに加えて、そのような興奮の渦を生み出せるカリスマ的なリーダーもいないのが実状である。
イランの多様性ということからいえば、少数民族を母体とした反体制武装勢力の動きも無視できない。
(1) クルド人を主体とする反体制武装勢力
北西部コルデスターン州とケルマーンシャー州を中心として、イランにはクルド人多数地域がある。そこでは、民族自決や自治を主張する、イラン・クルディスタン民主党とコマラ党の動きが注目される。
これらの組織はイラン国内で治安事案を散発的に引き起こしてきた。一方で、隣国のイラクやシリア、トルコとは異なり、イラン国内のクルド人は一定程度の既得権益を獲得し、体制の枠内で活動してきた経緯がある。体制外武装勢力として活動するものも依然あるにはあるが、現時点で大規模な反体制活動が計画されているとは伝えられてはいない。
(2) バルーチ人を主体とする反体制武装勢力
南東部シースターン・バルーチスターン州を中心として、バルーチ人が多く暮らしている。その大半はスンナ派信徒である。多くのバルーチ人は学校や職場ではペルシャ語を話し、家庭ではバルーチ語を話すといった生活をしている。しかし、一部には、バルーチ人の権利擁護を求めて治安事案を引き起こす武装勢力もおり、その筆頭はジャイシュ・アル=アドルである。南東部で治安事案を散発的に引き起こしてきた。
イラン体制は同勢力を敵対勢力と認識し、掃討作戦に力を入れてきた。ただ、同勢力も、現時点で大規模な反体制活動を計画しているとは伝えられていない。
外部者による価値判断とは全く別の次元で、イスラム共和国体制が存在することで、イラン国内の多様な声を汲み取り、また抑え込みながら、安定的な統治がなされてきた側面がある。仮にイラン現体制が崩れると、まるで地獄の釜が開かれるかのように、民族的出自や思想・信条に基づく対立が激化するとの見方もある。
冒頭の問いに戻ると、イラン体制がどのくらいの長期戦を持ちこたえられるのかは、都市部の中間層を中心とする無党派層の動き、外部から反体制武装勢力への水面下の支援の有無、反体制メディアの活発化、ミサイル・ドローンなどの軍事資源の残存の程度、および、新たなリーダーの登場など多くの変数から成る連立方程式で決まるといえる。現時点に限っていえば、現体制に代わる有力な統治主体は存在していない。このことは、米国の出口戦略の策定に大きな影響を与えるだろう。
なお、主導権を有するのが、米・イスラエルであることはいうまでもない。仮に米・イスラエルが泥沼の長期戦を望まず、ミサイル能力の削減や高濃縮ウランの管理など、短期的な戦略的目標を達成したとして、この戦争の幕引きを図るという比較的楽観的なシナリオがあり得る。親米政権を樹立して去るということも検討するもしれない。
ただし、イラン国内の政治潮流に関し、「改革派」の表現から受ける一般的な印象とは異なり、同派であっても革命体制そのものを否定するわけではなく、あくまでも体制のエスラーフ(改革;改良;修正)を求める政治潮流である点に留意が要る。つまり、トランプ政権が、イラン国内に親米指導者を擁立して撤退するというような方策の実現は簡単ではない。
他方、米・イスラエルが、大規模な宣伝工作、地上軍派遣、核関連・重要インフラ施設の完全破壊、反政府武装勢力への水面下での支援などの選択肢を総動員し、長期戦に持ち込む意思を有するのであれば、イランの著しい弱体化あるいは体制転換という悲観的なシナリオも残る。革命防衛隊が、実質的に体制を乗っ取る恐れもあろう。
総じて、比較的楽観的なシナリオから最も悲観的なシナリオまですべてを机の上に並べて、危機管理に当たることが非常に重要である。同時に、もし戦争が終結したとしても、残された交渉カードとしてのホルムズ海峡封鎖、核開発、ミサイル・ドローン攻撃、代理勢力への支援の継続は簡単には止まないとみられる。どのように展開したとしても日本を含む諸外国への影響は計り知れない。