ロシアに対抗する作戦において、ドローンの重要性が高まる中、ヤコベンコ氏は自ら23年に約200万ドル(約3億円)の資金を投じて工場の建設を開始した。しかし、ロシア軍の攻撃を受けて工場は壊滅的な状態に陥った。同氏の落胆は大きかった。
しかし、社員の強い要請を受けて再建を決意。工場は完成し、23年末にはドローン生産を開始した。ドローンの生産は当時、あくまでも軍に対する慈善活動の位置づけで、本業である物流業も続けていた。
提供されたドローンも、軍部隊においてはドローンを利用したことがある経験者が〝我流〟で操縦していたレベルだったといい、軍の作戦として十分に練られたものでもなかった。
しかし、転機が訪れる。同社の活動に着目したデジタル改革省と国防省が、彼らに専門的なドローン生産企業として再編するよう呼びかけた。その呼びかけに応じ、24年3月には15万機の大量受注を受けて、ドローン生産企業として本格的な活動を開始した。以来、わずか2年あまりでウクライナを代表する企業に成長した。
ウクライナのドローン産業の発展はいくつかの段階に分かれていると指摘される。
1) 14年のロシアによるクリミア半島併合、ドンバス地域での紛争勃発以降
ウクライナの企業がボランティアで、民生用品向けの部品を作りドローンを自作したり、クラウドファンディングを使って生産のための資金調達をする動きが広がった。ただ、その性能はまちまちで、軍との連携も不十分だった
2) 19年のトルコ製の無人戦闘航空機「バイラクタルTB2」導入
19年にトルコ製の無人戦闘航空機「バイラクタルTB2」をウクライナ軍が本格導入したことで、ドローンを活用した戦闘態勢を構築。21年には実戦配備された
3) 22年のロシア軍による全面侵攻開始以降
ウクライナ軍は各地の民間企業が進めたドローン製造開始の動きを束ねて、国を挙げたドローン供給の流れが生まれ始めた。TAFインダストリーズがドローン製造を本格化したタイミングもこの時期にあたると考えられる。これらのドローンは、1機数億円程度とされるバイラクタルよりさらに廉価で、複数の企業群が民生用部品などを活用し、新たなドローン生産を始めた
4) ロシアによるイラン製ドローン「シャヘド」の本格投入
初期の戦闘で失敗を重ねたロシア軍が、イラン製ドローン「シャヘド」の本格導入を開始し、ウクライナも米製ドローンなどで対抗した。ロシアはその後、シャヘドを国内生産する体制を構築する
5) ウクライナ軍が「ドローン軍」を構築
ウクライナ軍が組織的にドローンを活用する「ドローン軍」を設置し、長距離攻撃も可能なドローン導入を加速。ロシア国内の軍事、エネルギー拠点などへの攻撃も開始する。以後、ウクライナ国内でのドローン製造能力が大幅に伸び、国際社会でも高い注目を集めるようになる。25年6月に特殊作戦「蜘蛛の巣作戦」を実施しロシアの空軍拠点に大きな打撃を与えるなどの成果も生まれている
ウクライナのドローン産業の急激な発展は、同国のそもそもの産業ポテンシャルを背景にしている事実も見逃せない。旧ソ連諸国でも教育水準が高く、高等教育機関などが整備されていたウクライナでは、ソ連崩壊後の混乱で多くの人々が高い語学能力とIT関連の知識で新たなビジネスを立ち上げていった。
現在も、戦時下で発展しうる産業としてIT産業が中心的な役割を担っており、これらの職につくウクライナ人は戦時下でも活発に海外とのビジネスの拡大に動いている。労働力が廉価なことも、海外でのビジネスを広げる上でウクライナの強みとなっている。
イラン情勢は今後も先行きが見えないが、廉価なドローンで防衛力を大幅に強化できる事実を知った各国の動きは今後も止まるとは考えにくい。当面は、実戦での経験を最大限に獲得しつつあるウクライナのドローン産業への高い注目が続くことになるだろう。