――ラジオ番組の書き起こしで人気を博したブログが、書き起こしの閲覧を有料化したことで炎上、有料サービスを即時終了するという事案がありました。ラジオ番組の書き起こしは、音声を文字に変換するだけで素材自体に手を加えているわけではありません。この特殊性を踏まえて、ラジオ番組の書き起こしは著作権法上どのように扱われるべきでしょうか? また、無許諾での書き起こしと、その商業利用についてはどのように考えるべきでしょうか?
「ラジオ書き起こし職人」のみやーんZZが2011年頃から運営する「miyearnZZ Labo」は、主にお笑い芸人のラジオ番組の内容を書き起こし紹介するブログ。一部の番組で公認されるケースや、公式の書き起こしを依頼されるケースもあり、ラジオを聴かない層にその面白さを伝える活動として人気を博した。しかし2024年7月、無許諾での書き起こしを有料配信する「みやーんZZのRadio Days」というウェブマガジンを創刊したところ、「ラジオ各局が制作した放送内容を無断で書き起こし、記事化して有料配信すること」に批判が殺到。有料サービスを即時終了する事態となった。みやーんZZ自身も非を認め、全額返金を発表するとともに、ブログ「miyearnZZ Labo」の更新を当面休止。その後、運営方針を見直し、同年11月から更新を再開している。
まず、ラジオ番組におけるパーソナリティたちの会話自体が著作物かどうかから考えていきましょう。
著作権法では「小説、脚本、論文、講演」が言語の著作物の例として挙げられています。「講演」の例からわかるように、文字で表現されているかに関わらず、口頭で発せられた場合も、創作性があれば著作物になります。落語や漫才なども著作物ですね。
――なるほど、文字になっていなくても「著」作物に値すると。落語や漫才のやり取りを台本化した時点で著作権が発生するというわけではないのですね。
はい。米国の著作権法では、表現を「固定」することが著作物として保護される要件とされていますが、日本の著作権法では不要なのです。
では、「会話」自体は著作物になるでしょうか。ここでポイントになるのは、会話が「創作的に表現したもの」と言えるかどうかです。
例えば、とある二人が喫茶店で他愛もないおしゃべりをしている場合、一つひとつの発言は自然的に発せられた、ありふれたものとして創作性がないことが多いでしょう。
これに対し、ラジオ番組でパーソナリティ二人が話しているならば、大なり小なり「多くの人に面白く聞いてもらえるようにうまく話そう」と努めています。会話の内容にもよりますが、エピソードトークなどは聴取者に向けて表現を創意工夫しているでしょうし、漫才に近いような掛け合いにも創作性が認められる可能性はありそうです。
創作性があるかは難しいところですが、特にこうした「公衆に聞かれることを意識した会話」が一定のまとまりをもった長さとなってくると、ラジオ番組での会話が著作物と認められる可能性はあると考えられます。
もし、会話部分が著作物となれば、それをそのまま書き起こす行為は「複製」に当たりますし、不特定多数が見られるブログにアップロードすれば「公衆送信」にも該当します。そのため、炎上したブログの事例がどうかはわかりませんが、一般に無許諾でのラジオ番組の書き起こしと公開に著作権侵害のリスクがあること自体は否定できないでしょう。
――それでは、ただ単に書き起こすのではなく、面白い部分だけをまとめ直したり、内容を要約したりする場合はどうですか?
興味深い観点です。これは、手の加え方によって扱いが変わってきます。著作権法的には、手を加えたものからオリジナルの著作物の本質的な特徴を直接感得(感じ取ること)できるかどうかが問題です。
仮に、言葉尻や言い回しといったごく軽微な変更だけなら、十分にオリジナルの著作物の本質的特徴を直接感得できると言え、その場合は著作物を無断で「複製」した侵害行為として扱われます。
また、ごく軽微な変更ではなく、創作的な変更を加えている場合でも、なおオリジナルの著作物の表現の本質的特徴が残っていれば、それは翻案権*7侵害(無断で二次創作物をつくった)として扱われます。
例えば、ラジオ番組の会話を書き起こし、キャラクターのセリフとしてしゃべらせるような動画に編集したもの。あたかもキャラクターが話しているかのような動画にしたことは創作的な変更ですが、そのセリフ自体がオリジナルの会話であり、かつ、使用した会話部分に著作物性があれば、その著作物の二次創作を無断で作成したとして翻案権侵害となりそうです。
なお、複製権侵害と翻案権侵害は厳密な線引きが難しいため、実務上は「複製権または翻案権の侵害」とセットで言われることも多いです。
――なるほど……。多少の変更を加えても許されるわけではないと。
しかし、さらに大幅に要約、改変をして、オリジナルの表現が直接感得できないほどに変わっているとしたら、複製権や翻案権の侵害に当たりません。
「より改変をすれば著作権侵害にならないのか」と疑問に思われるかもしれませんが、著作権法はアイディアではなく具体的な「表現」を守る法律です。同じアイディアを別の表現を使って発表することは許されるため、大幅な要約や改変は適法になるのです。
考えてみると、著作物に限らず世の中の出来事、誰かが発表した考え、作品などのエッセンスを要約して世間に伝えることは、報道機関やジャーナリスト、もしくは我々が誰かに物事を伝えるときにしてきた、社会に必要なこととも言えます。
このように、ラジオ番組で話された内容のエッセンスを、自分の言葉で表現し直せば(元の表現の本質的特徴が残っていなければ)、それは著作権侵害にはならないのです。もっとも、ラジオ番組でのやり取りを、オリジナルの面白さや要点をうまく汲み取りつつ、元の表現の本質的特徴を残さずに伝えるのは……なかなか難しい作業ではあるでしょう。
*1 翻案/翻案権 著作物を翻訳、編曲、変形、脚色、映画化などにより新たな創作的表現に作り変える権利。著作権法第27条で規定される。
――著作権侵害の論点はありながらも、YouTubeやTikTok*2というプラットフォームでは、元動画を短尺に編集した切り抜き動画が多く閲覧される現状にあります。それらは元動画の認知拡大に貢献したり、(ポリシー変更に揺れてはいますが)収益化をもたらしたりする流れも見られます。また、収益性は問わず、出演者を応援するために「拡散」したいというファンもいます。見方を変えれば、彼らも新時代のクリエイターの一種と定義できるかもしれません。彼らの存在や活動が、今後、適正あるいは適法に実現される可能性はあり得るのでしょうか?
ここまで述べたように、単純な切り抜き動画は「適法な引用」に該当することも難しく、基本的に無許諾で行えば著作権侵害となる可能性は高いでしょう。そのため、切り抜きをする側としては、権利者の許諾を取ることが一つの解決策です。
これに対する権利者側の考え方はいくつかあります。まず、切り抜き行為は一切認めず、削除や損害賠償請求といった権利行使をしていく。あるいは、切り抜き行為を認めるつもりはないが、費用的・時間的コストからそうした権利行使まではしない。もしくは、宣伝にもなると判断して黙認する。
――どう判断するかは権利者の側にある、と。
その通りです。さらに、もし権利者として一定程度こうした利用を「認めよう」と思うなら、コンテンツ利用のガイドラインを設けたり、個別に利用許諾をしていったりすることも考えられます。
例えば、切り抜き動画の制作は認めるが、「本人への誹謗中傷に用いたり、本来の趣旨から逸脱したりしない」「公式と誤解されないようにする」といったことや、商用利用・収益化の可否、あるいはその収益の権利者への分配といったルールを取り決めることです。こうしたルールを定めるYouTubeチャンネルは既にいくつもあります(例えばホロライブプロダクション*3の「切り抜き動画に関するガイドライン」など)。
ルールに則って制作された場合は、本人から許諾を得たとみなせます。第2章(同人誌)でも出てきたことですね。
――テレビ番組では、こうしたガイドラインを設けている例は従来あまり見ませんね。一つの試みとして、フジテレビが2024年8月に、TikTokとタッグを組んで「切り抜きOK」の番組を放送した事例がありました*4。この番組では「切り抜き動画ガイドライン」を設けた上で、視聴者が切り抜き動画を作成し、自身のSNSアカウントなどに投稿することが許容されました。
YouTubeのコンテンツに比べて、テレビ番組は制作陣、キャストなど関係者が多いことも影響しているかもしれません。
また、YouTubeであれば公式動画にすぐ飛べるのに対し、テレビ番組だと、切り抜き動画の放送分はTVerなどで遡って見られないケースもあります。このように、テレビ番組側としては、YouTubeチャンネルなどに比べて、切り抜き動画から「公式」であるテレビ番組にユーザーが遷移する期待度が高くないことも理由の一つでしょう。もっとも、これも時代によって変わっていくように思います。
――番組の出演者が「自分が出ているところはどんどんシェアしていいよ!」と言っていた場合ならOKでしょうか?
番組映像の著作権は放送局など制作側が持っていることが通常なので、仮に出演者個人が「切り抜きしていいよ」と言っても、制作側が認めていなければ著作権侵害の問題が生じます。
――なるほど……。少し話がそれてしまいますが、テレビ番組の違法アップロードの中には、番組そのものの画面を縮小して端に寄せ、無関係な動画か画像が重ねられているものもあります。あれにはどのような意図があるのでしょうか?
AIによる違法アップロードの自動検知を回避しようとする目的でしょうね。YouTubeなどのプラットフォームは、アップロードされた動画が既存の著作物(オリジナル動画)と一致しないかを自動で比較・検知するシステムを持っています。権利者側はYouTubeに検知してもらえるよう、自身の映像をYouTubeのデータベースに登録しておきます。
そこで無断アップロード者側は、映像のサイズ変更、枠を付ける、反転させる、あるいは動画の途中に無関係な短い映像を挿入するなどの加工を施し、映像の同一性を変えることでAIによる自動的な「一致」の判定を回避しようとしているのです。再生速度を速く・遅くする処理がなされているものもありますね。
*2 TikTok 短尺動画を共有するソーシャルメディアプラットフォーム。音楽と連動したミームやトレンドが生まれやすく、楽曲のヒットにも大きな影響を与える。
*3 ホロライブプロダクション カバー株式会社が運営するVTuber事務所。二次創作ガイドラインを定めており、その中には「切り抜き動画に関するガイドライン」も含まれている。
*4 「切り抜きOK」の番組を放送した事例 2024年8月20日と22日の深夜に放送された、フジテレビとTikTokによるコラボ番組『1分deトレンドシェア キリヌキ可TV〜ウチのキリヌキはご自由に〜』。本番組では番組全編の映像に関して、ガイドラインを設けた上で、視聴者が切り抜き動画を作成(二次創作)し、自身のアカウントなどに投稿することを許容。さらに、番組公式TikTokアカウントにて、「切り抜き可」素材として放送後に本編映像をアップロードした。
もっとも、元の著作物が持つ表現の本質的な特徴部分をそのまま利用しているわけですから、仮にAIによる自動検知は回避できたとしても、そうした投稿動画が著作権侵害であることに変わりはありません。
――権利者がわざわざ許諾のルールを定める動機とは何なのでしょうか?
実は、ガイドラインなどのルールを定めず、違法な投稿に「いつでも権利行使できる」状態にしておく方が、権利者側に都合がいいという考えはあります。「ルールを決めてしまうと、ルール内かどうか判断に迷うものが出てくる」「ルールを逸脱する投稿を放置しにくくなるが、権利行使をすればコストがかかる」といった発想です。
もっとも、権利者側にもガイドラインを定めるメリットはあるでしょう。一つは、切り抜き動画などのコンテンツがユーザーやファンを増やすためのツールとして使えること。権利者のガイドラインがあると、ファンは安心して切り抜き動画などを発信でき、ファンが有効なプロモーションをしてくれることになります。
切り抜き動画とは異なりますが、例えば出版社が、自社刊行の書籍について「SNS等で自由に使える書影ページ」を公開していることもあります。これもSNSやブログなどで感想やレビュー投稿を促す狙いですね。
もう一つは、違法アップロードを含む二次利用があふれている現状で、「望ましくない使われ方を防ぎたい」「収益の回収をきちんとしたい」といった考えに対応できることです。ガイドラインを定めることで、「使われ方」に一定のラインを引くことが可能です。また、「切り抜き職人」との間で、切り抜き動画による収益の分配を約束することで、収益回収を図ることもできます。
こうした二次利用からの収益化は音楽分野でも見られることです。YouTubeの仕様上、YouTube上での無断音源使用に対し、権利者は「差し止め」のほか「収益化(その動画からの収益を権利者に帰属させること)」を選択できるのですが、音源利用について収益化を選択するケースは多いと感じます。
――ファンとうまく共存していくためにも、「ガイドラインの制定」というのが一つの手段になり得るわけですね。
はい。特にファンからの発信も多い現代では、コンテンツをつくる側が自ら利用のルールを考えていくことの重要性が高まっていると思われます。
一定の利用を認めて自身の作品が広く知られるようにしていくか、もしくは、そうした利用のルールは定めずいつでも権利行使できる状態を残しておくのか。冒頭のご質問にあるように、ファンや職人を「新時代のクリエイター」と捉えるなら、彼らといかなるコラボレーションをするのか、あるいはあくまで一定の距離を保つのか。
著作権法は創作者の権利の保護と利用のバランスを図るルールを定めたものです。今後はクリエイターにも、自身の作品利用に関する保護と利用のバランスを自ら考えていくことが求められるのかもしれません。