昨年からメンタルクリニックの休職診断書ビジネスに言及しているが、今回は社員・患者の目線から述べる。
人は、甘い言葉に弱い。「給与の3分の2もらえます」、「安心です」、「もう大丈夫です」、「心配はいりません」、「ゆっくり休みましょう」。こうたたみ来られると、ついその気になってしまう。
まして、その言葉を発するのが医師という社会的信用がおけそうな人物だと、信じてしまう。「まさか、だますはずがない」、そう思う。
しかし、信じる者は救われない。後で後悔することにもなる。
「給与の3分の2をもらえた。でも、直後に目減りした。全然安心じゃなかった」。そう痛感することになり得る。
医師には、だます意図はない。一応、情報としては正しく語っている。その言葉は、「傷病手当金は標準報酬日額の3分の2」という規定に照らして間違っていない。しかし、事実を伝え尽くしているとは言えない。そもそも医師は、ファイナンスのプロではないので事情を正確に把握していない。
事情とは、「“もらえる”と“使える”はイコールではない」ということである。もちろん、給与だって可処分所得とイコールではない。しかし、この事実は、天引きされていたころには、さほど気にならなかった。
傷病手当金については、そこから何も天引きされない。そのかわりに請求される。請求され、やむを得ず支払うと、その時に初めて、「3分の2もらえるから安心」を額面通りに受け取ってはいけなかったことに気づく。
すでに、メンタル不調を理由に長期にわたって休職し、傷病手当金を最大期間受給してしまった人の多くは後悔している。「最大期間受給した」ということは、「最大期間にわたり3分の2から様々な支払いをしてきた」という意味である。
この小文は、「仕事がつらくて、メンタルクリニックから診断書をもらって、これから長期の休職に入りたい」と思っている人に、ぜひお読みいただきたい。
傷病手当金が「標準報酬日額の3分の2」というのは、制度理解としては正確である。ところが、この言葉は2点の重要な事実を看過している。
第一に、社会保険料は減らない。ほぼ固定である。ここには健康保険、厚生年金が含まれ、40歳以上であれば、さらに、介護保険料が上乗せされる。これらは標準報酬月額ベースで継続され、おおむね、その14~16%程度であり、在職中は会社と折半する。これは、3分の2を乗じる前の金額で計算されるもので、傷病手当金に対する負担の割合はより大きくなる。
第二に、住民税も継続される。健康保険法第62条により傷病手当金は非課税所得と定められているのだが、住民税は前年所得をもとに算出される。現在の収入減とは連動せず、これまで同様に納付しなければならない。
そうしたことを加味すると、実態はこういうことである。概算にして以下の通りとなる。
計算をわかりやすくするために、月額給与(標準報酬月額)を30万円とすると、支給される傷病手当金はその3分の2だから、20万円である。そこから社会保険料(仮に健康保険7500円、厚生年金約1万3500円とする)合計約2万1000円、住民税約2万円、医療費を安く見て約5000円、合計支出4万6000円となると、手元には、約15.4万円しかのこらないことになる。
条件によっては、受け取り額はさらに減る。たとえば、前年高収入を得た結果今年度の住民税が高い、健康保険・年金を全額自己納付(会社立替なし)といった場合だ。通院の回数が増えていたり、家賃の負担があったりすれば、さらなる出費を余儀なくされる。