「休職しても給与の3分の2もらえる」の盲点…傷病手当金で必ずしも「安心」ではない、噴出する他の“不安”

2026.04.23 Wedge ONLINE

 傷病手当金20万円から支払う分が例えば、社会保険料約2.5万円、住民税約3万円、医療費約1万円、家賃を低く見積もって約6万円とすると、合計支出が約12.5万となる。手元には、わずか7.5万円しか残らなくなる。

 「3分の2もらえる」という言葉からは想像しにくいが、生活はこれまでのものより厳しいものとなる。貯金を取り崩すことも考えることになるかもしれない。

 総じていえば、「傷病手当金は給与の3分の2もらえる」から「安心」とか「大丈夫」という訳では必ずしもないということである。実態は、「生活費の大半が消えていき、貯金を取り崩す必要も生じる状態」である。

 「給与の3分の2」という言葉だけを字義通り捉えて、楽観バイアスで休職に入ったものの、家計のやりくりが難しくなり、納付書が次々に届いてパニックに陥ることになる。実際に筆者のところにも、金銭を失う衝撃から「そんなこと聞いていない」と苦情を言う患者も珍しくない。

 この点は、固定費(家賃・ローンなど)がある人ほど危険であり、扶養家族がいるとさらに厳しくなる。長期化すれば、状況はさらに厳しいものとなろう。

退職すれば、より負担がのしかかる

 インターネット上には、退職直前の受診で休職診断書を得て、退職後も傷病手当金を受給するよう誘導しているところもある。「退職給付金」という言葉も飛び交っているが、実際のところ、傷病手当金はそのカテゴリーに属さない。そもそも、「退職給付金」という呼称自体が間違いであり、退職後受給を勧奨する一部の業者が、傷病手当金を指してそう呼んでいるだけである。

 端的に言う。退職後、負担はむしろ重くのしかかる。「会社に守られていた仕組み」が外れ、税金・保険は原則すべて“自分で支払う”状態になるからである。

 傷病手当金は、たしかに退職後も条件を満たせば継続支給される。しかし、退職とともに社会保険の資格は消える。

 退職後の選択肢は3つある。一般的なのが「任意継続」で、退職前の健康保険を最長2年間継続できる。ただし、在職中は給与の約15%を会社と折半していたのが、今度は会社負担分も含めて全額自己負担となる。標準報酬30万円の場合を例にとれば、毎月約4万5000円を納付しなければならない。

 次いで、国民健康保険に加入する方法があるが、こちらは所得ベースであり、初年度は高くなりやすい。第3の方法が扶養にはいることだが、厳しい収入制限があり、傷病手当金受給中は困難である。

 年金に関しては、厚生年金が退職とともに消滅することに伴い、国民年金に移行し、月額1万7000円が徴取される。住民税は、前年所得ベースで計算され、現在の収入がいくら減っていても考慮されない。そのため、前年度の年収が400万円なら、年間20万~30万円であり、月換算でも2万ないし3万円を納付することとなる。雇用保険については、失業中に支払い義務はない。医療費は、健康保険適用なら3割負担となり、継続通院なら増加する。

 退職後の固定負担をまとめると、以下となる。

・健康保険:4万〜5万円
・国民年金:約1万7000円
・住民税:2万〜3万円
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■ 合計 約8万〜10万円/月

 これを収入との関係でみれば、傷病手当金が約20万円あり、そこから約9万円が引かれれば、手元に残るのは、約11万円となる。すなわち、退職後に関しては、「3分の2の収入を得られる」との文言は現実を反映していないことになる。

 収入が3分の2に減る上、健康保険料は全額自己負担となり、国民年金や住民税の支払いも続く。退職後は支出が増える分、実際に手元に残る金額は、在職中よりさらに減少する。在職中の休職よりも、金銭面ではいっそう逼迫して来る。

仕事と貧困とどちらが怖いか?

 休職の長期化は貧困への道にもなる。休職中の社員(患者)は、産業医(主治医)に対して、「仕事のことを考えると不安になる」と言うかもしれない。それなら、産業医(主治医)は、こう尋ねればいい。「お金のことを考えると不安にならないか?」と。もし「不安になる」と言うのなら、「その不安が仕事の不安より大きくなる前に、仕事にもどるべきだ」、そう諭すべきであろう。

 職場にもストレスを引き起こす出来事は発生する。しかし、その影響は一時的であり、時間とともに逓減する。一方で、金銭を巡る不安は、時間がそれを解決することはなく、むしろ、時間とともに増大していく。貧困は、自己評価を下げ、回避行動を助長し、社会参加の道を閉ざし、その事実がいっそう貧困を助長する。

 休職は「安心のために長く続けるもの」ではない。長く続ければ、それだけ金銭の不安を助長する。可能な限り短く設計し、早期復帰を目指すべきである。