メンタル不調を理由とした自宅療養は、弊害のほうが大きい。意義があるのは、ごく短期間のみである。長期化すれば、復職が困難となり、メンタルヘルスにとっても、経済的な損失という点でも、大きなマイナスとなる。
うつ状態は悪化するが、それは休職以前の職場ストレスに由来するのではない。むしろ、長期化による不活発に由来する。
何よりも恐れるべきは、療養長期化から貧困へは、途中からジェットコースターのように加速がつくという点である。離職、転職、再休職、そして、最終的には正規雇用から非正規雇用を経て失業、ついには生活保護へという具合に、瞬く間に転落していく。
この療養長期化の弊害は、近年の医学文献によっても明らかにされている。本稿は、オンラインジャーナルの一コラムであって、学術論文ではないので、冗長なリストは避けるが、関心のある人は原典にあたれるように、テキスト内に文献を記しておく。
まず、前提事実として、このことを抑えておきたい。日本は、自宅療養期間が諸外国と比べて段違いに長いのである。うつ病による欠勤日数の国際比較を行った研究があるが、ブラジル、カナダ、中国、韓国、メキシコ、南アフリカ、アメリカ、日本の8カ国のなかで、3週間を超える長期化がずば抜けて多いのが日本であった (Evans-Lacko et al., 2016)。
世界で一番、メンタルによる療養が長期化しているのが日本であり、世界で一番、長期化の弊害を受けるのが、日本の患者である。
日本の問題については、以前に述べた通り、傷病手当金がかえって復職を妨げる結果になっている(「休職しても給与の3分の2もらえる」の盲点…傷病手当金で必ずしも「安心」ではない、噴出する他の“不安”)。この制度に、復職支援が組み込まれていないため、自宅療養の継続に経済的なインセンティブが働いてしまうのである。
ドイツでは、うつ病患者を対象とした個別復職支援が充実している。このプログラムに参加した129人を対象とした予後研究がある(Bergdolt et al., 2024)。追跡期間1年以内に職場復帰できたのは、半分以上の計70人であった。
職場復帰のオッズ低下、つまり、復職を阻害する因子としては、研究参加前1年間の療養日数が100日以上であること、自己評価による認知機能低下の程度が重いことが挙げられた。この研究は、従前、良好な就労歴を持ち、個別就労支援という充実したプログラムを受けられた参加者で構成されており、全体としてポジティブな結果が得られることが予想されていた。
そのサンプルにおいてすら、長期化した自宅療養が、復職を妨げることが示された。この論文が意味する事実は、自宅療養には、これ以上長期化すれば戻れなくなるポイントがあるということ、かつ、それは100日より以前である、ということであろう。
長期欠勤自体が復職を困難にすることに加えて、初回欠勤が長ければ、再度の欠勤のリスクもあがり、2回目はいっそう長期化する。この点を明らかにしたのが、日本の研究(Endo et al., 2019)である。
2回の欠勤・復職を経験した214人を対象にしたこの調査では、初回期間(107.3日)より2回目期間(156.9日)の方が有意に長かった。ロジスティック回帰分析において、「初回病気休暇期間の長期化」が、再発した病気休暇期間の長期化を予測する有意な因子として特定された。すなわち、うつ病による最初の療養期間が長いほど、2度目の療養も延長するという意味である。