精神疾患による療養後、復職を果たしても、その後、安定した就労(少なくとも1ヵ月以上継続)を続けられるものであろうか。この「復職後安定就労」(sustained return to work)に関しては複数の研究が行われている。それらをまとめた総説論文(Muntanelli et al., 2025)によれば、再発を繰り返すほど復職後就業継続が困難であることが明白であった。
そのほかにも、長期休職が再発・就労不能リスクを上げることを示す論文は、枚挙にいとまがない(Meling et al., 2023; Shiri et al., 2025)。長期化する前に介入して、早めに復職させなければならないのである。
これらの論文の結果を統合すれば、以下のようになる。メンタル疾患による休職には時間依存的リスクがある。すなわち、長くなるほど、職場復帰も、その後の就業継続も困難になる。
自宅療養は、初期には回復を促す効果がある。しかし、中期以降は、自己効力感を低下させ、職場との断絶を生み、社会的役割を喪失し、職場復帰を遠ざけることとなる。
長期休職すると、復職が困難となり、復職しても早晩再休職し、さらに長期化し、いっそう復職が困難となる。悪循環そのものである。
では、どこが臨界点か。ドイツの論文(Bergdolt et al., 2024)では、100日という数値があがっている。そのほかにも、3ヵ月前後を示唆する論文は、複数ある(Meling et al., 2025; Fisker et al., 2022)。
おそらくは、臨界点は単一ではなく、複数の層として存在するであろう。インフルエンザや新型コロナ感染症で欠勤する場合、メンタル療養と比べれば、復職後の就労が安定していることは、経験的に知られている。
その場合の期間は、1~2週間であろう。この期間ならば、メンタル療養であっても、復職後の適応に大きな問題はないであろう。メンタル欠勤は、呼吸器感染症より長期化し、3週間を超えることもあるが、この3週間あたりに、おそらくは第2の臨界点があろう。
ちなみに、先の8ヵ国国際比較論文(Evans-Lacko et al., 2016)は、療養期間の比較の際に、日数にして0、 1~3、6~10、11~15、16~20、21以上と分類しており、21日以上を一括している。つまり、諸外国では、3週間を超えればすでに「長期離職」と見なすのである。
自宅療養が1ヵ月を超えて2ヵ月目に入るころから、行動固定化が始まる。行動科学・リハビリ研究では、6〜8週間の不活発状態で生活リズム不整が常態化し、患者役割が内面化して、自分自身を「社員である前に患者」として規定するようになる。3ヵ月を超えて復職率が優位に低下し、再発率が上昇するとしても、その前兆はすでにその前から始まっていたと考えられる。
したがって、「焦らないで十分休ませれば、それで回復する」という考えは間違いである。一定期間を超えると、自宅療養そのものが、反転してリスク因子に変わる。したがって、「休ませるか戻すか」ではなく、「いつから戻すか」が最重要課題となる。
経済協力開発機構(OECD)は、すでに、精神疾患と就労の問題を、「医療だけ」の問題ではなく、労働政策・社会保障政策・教育政策・企業実務を統合して考えるべきだとしている。
2015年に政策報告書『健全な心、健全な仕事:メンタルヘルスと仕事におけるエビデンスから実践へ』(Fit mind, fit job: From evidence to practice in mental health and work, 2015)を公刊し、メンタルヘルス問題が失業、休職、生産性低下と結びついており、医療・雇用・福祉を統合した早期介入が必要だと論じている。つまり、「治るまで働かせない」という発想ではなく、「働く能力を失わせないように治療する」という発想への転換である。
このOECDの提言を具体化するには、「早期からの職場志向型介入」が重要となろう。軽度から中等度のうつ、不安、適応障害、ストレス関連障害に対する職業志向型介入のシステマティックレビュー(Brämberg et al., 2024)では、単なる症状治療だけではなく、職場との接点、業務調整、復職計画を含む介入が重視されている。
本邦のメンタル療養については、休む患者以上に、休ませる医師が長期化の弊害について無警戒過ぎる傾向にある。メンタル療養は、長期化すると、生活リズム、職業的自己効力感、職場内関係、業務遂行能力、労働市場での信用を失わせる。
したがって、自宅療養診断書を反復延長する医師は、患者を守っているように見えて、結果的には患者の未来を崩壊させていることになる。医師の責任は、単に「休ませる」ことではなく、「休ませすぎない」ことであるといえる。