アメリカ、カナダとの共催による2026年FIFAワールドカップが現地時間6月11日(日本時間12日)に開幕する。メキシコは1970年大会、86年大会に続き、史上初となる3度目のW杯開催国となる。
世界最大のスポーツイベントを迎える国として、首都メキシコシティを中心に大会への期待感は確実に高まっている。一方で、その熱狂の裏側では、物価上昇や格差拡大、治安への不安、公共サービスを巡る不満など、現代メキシコが抱える課題も浮き彫りになっている。
今回、メキシコはメキシコシティ、グアダラハラ、モンテレイの3都市で試合を開催する。特に開幕戦が行われるメキシコシティは、人口約900万人、都市圏人口は2000万人を超える中南米最大級の巨大都市だ。アステカ・スタジアム(大会での公式名称はエスタディオ・シウダ・デ・メヒコ)は、70年大会でペレ率いるブラジル代表が優勝し、86年大会ではディエゴ・マラドーナが「神の手」と「5人抜き」の伝説を残したサッカー史の聖地でもある。今大会では史上初めて3度目のW杯開催を経験するスタジアムとして、新たな歴史の舞台となる。
街中では既にW杯の装飾が目立ち始めている。空港には各国の国旗や歓迎バナーが掲げられ、市中心部では巨大なカウントダウンボードが設置された。
歴史地区や観光名所ではサポーター向けのイベント準備も進み、飲食店やホテルでは各国からの来訪者を迎えるための準備に追われている。市内の商業施設では代表ユニフォームや大会関連グッズが並び、サッカー大国らしい熱気が徐々に高まっている。
しかし、その一方で大会直前のメキシコシティを象徴する風景となっているのが、公立学校教師による大規模な抗議活動だ。
近年のメキシコではインフレによる生活費上昇が続いている。食品価格や住宅費、光熱費などが上昇する一方、公務員や教育関係者の賃金上昇は十分ではないとされる。全国教育労働者調整委員会(CNTE)を中心とする教師たちは、賃上げや年金制度改革の見直しを求めて大規模なデモを展開している。
首都中心部のソカロ広場では数千人規模の教師がテントを張り、長期間にわたって座り込みを実施。主要道路の封鎖や空港へのアクセス道路の占拠も行われ、市民生活に大きな影響を与えている。現地メディアでは「W杯よりも生活を守れ」「教育に投資を」という抗議参加者の声が繰り返し紹介されている。
デモは一部で過激化している。教師らがW杯関連のモニュメントを倒壊させたり、サッカー選手を模した巨大オブジェを燃やしたりする映像も拡散された。彼らの主張は大会そのものへの反対というより、「世界がメキシコを見る今こそ、自分たちの置かれた状況を知ってほしい」というものだ。世界中のメディアが集まるタイミングだからこそ、社会問題を国際社会へ発信する好機と捉えている側面もある。
政府も対応に追われている。クラウディア・シェインバウム大統領は対話姿勢を示しながらも、大会運営への影響を最小限に抑える方針を打ち出した。
開幕日に合わせて学校を休校とし、連邦政府職員には在宅勤務を指示。民間企業にもリモートワークを推奨するなど、異例とも言える交通混雑対策が取られている。
そもそもメキシコシティは世界有数の渋滞都市として知られる。標高2200メートルを超える高地に位置し、自動車交通量も非常に多い。平常時でも移動に時間がかかることが珍しくなく、大会期間中には世界中から数十万人規模のサポーターが訪れると見込まれている。