日本を経由した、米エヌビディア製のAI(人工知能)半導体の中国への密輸事件が浮上した。
ブルームバーグは28日、台湾検察が男性3人を逮捕したことを報じた。エヌビディア(NVIDIA)製AI半導体搭載のスーパー・マイクロ・コンピューター製サーバーの密輸容疑だ。サーバー約50台が押収されている。
台湾当局によるAI半導体密輸の摘発は今回が初めてとはいえ、密輸が広範に行われてきたことは公知の事実と言ってもよい。東南アジアがメインルートとされるが、実は日本も経由地としての関与が強く疑われてきた。
疑惑にとどまっていた密輸ルートだが、ついに捜査のメスが入りつつある。
米商務省産業安全保障局(BIS)は2022年10月、先端計算チップ、スーパーコンピューター関連品目、先端半導体製造装置の対中輸出規制を打ち出した。軍事意思決定や自律兵器、大量破壊兵器、人権侵害につながる軍民両用AIへの転用を防ぐことが目的だ。
以後も規制の強化は続く。23年10月には性能密度の基準を追加して抜け穴を塞ぎ、24年4月に再補強。25年4月には、NVIDIAが中国市場向けに性能を調整したH20にも対中輸出ライセンス要件が課された。
一方、中国のAI開発は止まっていない。ディープシーク、アリババグループ、バイトダンスなどが競うように最先端モデルを発表し、米国の先端AIモデルと比べても「数カ月遅れ」の差を保って追いかけ続けている。いかにして開発を続けているのか。
中国は以下の4つのルートを通じて先端半導体を確保していると言われる。第一には買いだめ。規制前に大量に購入したAI半導体を活用している。第二に海外データセンターの活用。東南アジアや中東のデータセンターで中国製AIのトレーニングを行う手法だ。第三に子会社経由での調達。海外に設立された子会社での購入は条件次第では規制対象外となるが、その半導体を中国の親会社に渡せば違法となる。米政府は中国企業の子会社すべてを輸出規制の対象に組み込もうとしているが、中国政府は強く反発している。そして、第四の密輸である。
AI半導体の大規模な密輸、このこと自体は広く知られていた。2年以上前となる24年4月に米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は報告書『半導体密輸パイプラインの可視化と輸出管理コンプライアンスの向上』を公表している。
AI半導体は“密輸向きの商品”だと、同報告書は指摘する。エヌビディアのAI半導体「H100」は約4万ドルと高額で、かつサイズは靴箱に収まる。ドラッグと同じで、隠しやすく、かつ大きな利益が見込めるおいしい商材と言える。同じ半導体関連でも、中国が必要としている製造装置は大きすぎて密輸には不向きだ。
密輸には4段階の工程がある。まず買い付け。エヌビディアの正規販売代理店、サーバーなどの製品に組み込んで販売する機器メーカー、再販事業者からAI半導体を購入する。本人確認があるが、ダミーのペーパーカンパニーでクリアする。
ペーパーカンパニーは次から次に新設され、怪しい会社が潰されてもすぐに次の会社が登場するモグラ叩き状態だ。特に狙われるのが高度な審査能力を持たない、小規模な機器メーカーや再販事業者である。
第二の工程が通関。買い付けた国からAI半導体を持ち出す必要がある。米袋や電子ゴミの中に入れる、サーバーなどの電子機器に組み込むといった隠蔽工作が行われるほか、賄賂が横行する途上国では通関検査官を買収する手法も使われている。