フィナンシャル・タイムズ紙欧州担当編集者のベン・ホールが、7月8日付けの論説において、マリーヌ・ルペンが控訴審判決を受けてフランス大統領選挙に立候補を宣言すると共に破棄院(最高裁に相当)に上訴したことを、二重の賭けに出たと評価し、対立候補を利することになるかもしれないと論じている。要旨は次の通り。
横領罪での有罪判決を不服として上訴しつつ、フランス大統領選への出馬を継続するというマリーヌ・ルペンの決断は、極めてリスクの高い戦略だ。世論調査で彼女に大きく遅れをとっている主流派の対立候補たちを、結果的に利することになりかねないからだ。
フランスの最高裁にあたる破棄院への上訴により、控訴院が下した7月7日の有罪判決と執行猶予付きの刑の効力は一時停止される。これにより彼女は、最終的な判決が出るまでの間、電子監視用タグを装着することなく、自身の政党「国民連合」の候補として選挙戦を戦うことが可能になる。
少なくとも現時点では、洗練されてはいるが選挙戦の経験が浅い後継者、ジョルダン・バルデラにバトンを渡す必要はない。しかし、これは「二重の巨大な賭け」でもある。
この戦略は、選挙戦の争点をマクロンの10年にわたる政権運営の失政から、政治色を帯びたとされる司法や国家機関との「トランプ流の対決」へとすり替えてしまう恐れがある。そうなれば、決選投票での勝利に不可欠な、中間層の多くの有権者を遠ざけることになりかねない。
また、もし来年初頭に破棄院が電子監視タグの装着を命じた判決を維持すれば、土壇場で国民連合の選挙キャンペーンが根底から覆される可能性もある。
この件では、判決の遅れは正義の拒絶となるのは明白なので、破棄院は迅速な判決を下すよう強い圧力を受けることになるだろう。大統領選の第1回投票は4月18日に行われ、その2週間後に決選投票が予定されている。
ルペンは、国内の政治活動に従事する党職員の給与に欧州議会の資金を流用したことに主導的な役割を果たしたとして、昨年一審で有罪判決を受けた。その際、言い渡された5年間の公職就任禁止処分は、法的には認められるとはいえ、この厳しい罰則は、民主的プロセスへの介入であり、司法の権限の逸脱であると批判を浴びた。
控訴審判決は、ルペンの出馬禁止期間を大幅に短縮することで、そうした批判を封じる形となった。その一方で、控訴院はルペンの横領罪での有罪判決を支持し、懲役3年(うち2年は執行猶予)のうち1年間について、電子監視用タグの装着を命じた。事実上、裁判所は出馬するか否かの判断をルペン氏自身に委ねたことになる。
ルペンが政治化された司法の犠牲者であるという見方は、国民連合の支持者には受けるかもしれないが、フランス国民全体には支持されていない。最近の世論調査では、59%の国民が、彼女は他の一般市民と同様に扱われていると回答している。
選挙の第1回投票まではまだ長い道のりがある。対抗する中道派は分裂していて、新鮮な政策を掲げる有力候補の下に結束することに苦慮しており、国民連合は依然として有利な立場にある。
ルペンは時間を稼ぐことに成功し、投票日までに司法による最終的な審判を回避したいと考えているかもしれない。しかし、彼女の誠実さや国家元首としての適格性が選挙戦の最大の争点となることは避けられないだろし、投票日のわずか数週間前に最高裁が彼女に不利な判決を下した場合、彼女がどうするのかという点も焦点となるはずだ。