ハマスがイスラエルを急襲した2023年10月以降、中東は動乱が続いている。その中心にいるのはネタニヤフ政権が主導するイスラエルであることに異論はないだろう。ハマスの急襲後に拠点であるガザ攻撃を実施し、協力するレバノンのヒズボラ、それら抵抗勢力を束ねるイランを攻撃し、中東全体を混乱の渦に巻き込んだ。
加えて24年12月にシリアでアサド政権が崩壊し、シャラアを大統領とする新政権が発足。さらに、第二次トランプ政権が発足した米国が、中東情勢から距離を置くと言及しながらも25年6月の12日間戦争に関与し、そして26年2月28日以降にイランと本格的な戦争に突入し、中東の混乱に拍車をかけている。
こうした動乱に翻弄されつつも、中東の地域大国は自国の安全保障を第一に考えるとともに、域内でどのように影響力を行使するかを探っている。そうした地域大国の1つがトルコである。
トルコは、ハマスの急襲から米・イラン戦争にかけて、イスラエルの行動を一貫して非難するとともに、中東地域の安定化に尽力してきた。また、シャラア政権発足の後ろ盾となったのはトルコであり、アサド政権期と比して影響力の拡大が予想された。
トルコが懸念しているのは、イスラエルがシリア、延いては中東全体の覇権を握ることである。
シャラア政権発足後の25年4月1日に、トルコはシリア中部ハマー県の航空基地、そしてホムス県のパルミラ空軍基地とティーヤース空軍基地(通称T4)へ部隊を駐留させた。これに対し、イスラエルが翌2日夜にハマーの航空基地とT4に空爆を実施し、トルコを牽制した。これは、アサド政権という緩衝地帯が消失したことで、トルコとイスラエルが直接的に対峙する可能性を示す事例であった。
トルコのエルドアン大統領は、敬虔なムスリム(イスラーム教徒)であり、そうしたムスリムの連帯を意識しながらイスラエルの行動を非難してきた。また、トルコがイスラエルの域内でのアグレッシブな行動を抑制する手段として期待しているのが米国である。
トルコは、第一次トランプ政権時に経済制裁を受けたり、北シリアでのクルド民族主義組織への米国の支援の打ち切りや16年7月15日クーデタ未遂事件の首謀者とされ、当時米国に在住していたトルコ出身のイスラム系新興宗教指導者フェトフッラー・ギュレン師の引き渡しに失敗したりするなど、良好な関係構築に苦慮した。第二次トランプ政権では、そうした反省を生かし、良好な関係を築いている。
例えば、トルコが第一次トランプ政権から受けた「敵対国に対する制裁措置法(CAATSA)」の原因となった、ロシアから購入したS-400防空ミサイルシステムをロシアに返還するか、他国に売却する案が検討されている。制裁を受けたことによりストップしていたF-35戦闘機の購入に関しても、26年7月のエルドアン大統領とトランプ大統領の会談で購入を進めることが確認された。
この両者の会談は、トルコがホスト国であった北大西洋条約機構(NATO)サミットの際に実施されたが、トランプ大統領はたびたび米国のNATO脱退を口にしており、NATOサミットへの参加も危惧されていた。そうした中、エルドアン大統領はトランプ大統領に気をかけ、他国の首脳以上に丁重に扱ったことで、トランプ大統領から「サミットに参加してよかった」というコメントを引き出した。
米国とイスラエルは「特別な関係」にあり、それはトランプ政権下でも不変だが、これまでトランプ大統領は、ネタニヤフ首相の行動に少なからず苦言を呈するなど、両者が考える中東地域の未来は必ずしも一致していない。トルコは、トランプ政権との距離を縮めることでイスラエルの行動を制限することを狙っている。