ディズニー「38歳デジタル戦略部長」の重大使命

テーマパークの主役はリアルの体験。デジタル戦略も、他社とは異なるサービスが求められる(編集部撮影)

東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、4月1日から入園者(ゲスト)数の上限を「ランド」「シー」の各パークで2万人以下に引き上げると発表した。緊急事態宣言中の3月21日までは5000人以下、22日~31日までは1万人以下としていた。

ディズニーホテルの宿泊客向けに、本来の入園時間より1時間前に入園できる「アーリーエントリーチケット」も一部販売する。また、延期していた「ベイマックス」のイベント開催が決まった。本来の実力値には程遠いが、着実にパークに活気が戻ってくる見通しだ。

ただ、ゲストの増加は課題でもある。高いレベルのコロナ感染防止策が求められるからだ。そこでオリエンタルランドが期待をかけるのが、2月に新設した「デジタル戦略部」。同部署に複数の部署で行われていたIT関連施策を集約し、顧客満足度の向上だけでなく、スピード感のある感染対策も講じていく構えなのだ。

アプリは1200万ダウンロード

デジタル戦略部は約20人。部を率いるのは約5年間、パークのIT施策に携わってきた木村守善部長だ。38歳の木村部長は「デジタルを経営に近いところで判断しなくてはならなくなった。以前からそうだが、コロナを機にその必要性が高まった」と背景を説明する。

木村部長は「リアルの体験をよくするためのデジタル」と強調する。ネット企業とは大きく異なる視点だ(記者撮影)

木村部長が重視するのは「リアルのパークをどう楽しんでもらえるか」という点だ。現地での体験が最大の武器であるテーマパークにとって、デジタルはあくまでサポートツールと言える。

これまでも、デジタル関連の取り組みは積み重ねてきた。2018年には別々で提供していたオンラインのサービスを集約し、公式スマホアプリをリリース。アトラクションやレストランの待ち時間等が把握できるデジタルガイドマップ、eチケットの購入、ホテルのチェックイン、ショッピング機能などを搭載したものだった。2月現在、1200万ダウンロードに達している。

その後も人気アトラクションに優先的に入場できる「ファストパス」機能を追加するなど、ゲストの待ち時間や移動時間を減らし、負担の軽減に努めてきた。また、直接の問い合わせやSNS上の口コミ、現場のキャストの声も取り入れ、UIを含めたアプリの改善も続けてきた。ここまでは、増え続けるゲストに対応し「どう楽しんでもらうか」という対策だった。

最優先は安全対策に変化

ただ、コロナ禍でデジタル戦略の方向性が一変する。ユーザーが快適に過ごすだけでなく、ソーシャルディスタンスの確保など、安全対策が第一になったのだ。

そこで、2020年9月には、指定された時間に対象となる施設の列に並べる整理券の「スタンバイパス」、対象となる施設の中から利用したい時間帯にエントリーし、当選すると利用できる「エントリー受付」の機能を追加している。ゲストを時間帯ごとに分散させる取り組みだ。

本来なら、ゲストが並ぶ時間もテーマパークにとって重要な演出のひとつ。待つ間も世界観を楽しめるよう、装飾があったり、音響の工夫も至るところでめぐらされている。だが、今は感染防止策が最優先。コロナ対策チームなどとアイデアを出し合い、ディズニーとも通常以上の速度で調整を進め、約2カ月でサービス開始にこぎ着けた。

新エリア「美女と野獣」はエントリー受付の対象施設。ゲストは抽選で当たれば体験できる(写真:オリエンタルランド)

安心・安全はもちろんだが、今後デジタル戦略として力を入れるのは、ゲストの情報格差を埋めるようなコミュニケーションだという。