コンサル会社が異業種人材をかき集めまくる訳

コンサル業界が大量にかき集めているのはIT人材。その背景にあるのは?(デザイン:熊谷 直美)

大手通信会社で働くエンジニアの岡田貴弘さん(仮名・38歳)は、この春に転職活動を進めていた。狙っていたのはコンサルティング業界。「まずは試しに」と転職サイトに登録すると、驚いたことに人材紹介会社から月100~200件ものスカウトメールが舞い込んだ。転職エージェントに理由を尋ねると、「コンサル会社は最近、異業種から大量に人をかき集めているんですよ」との答え。とくに岡田さんのような大手ITベンダーでの開発経験がある人材にはスカウトが殺到しているという。

聞けば、データサイエンティストなど、需要の高いスキルを持っている人には月500件ほどのメールが届き、年収も、現状より200万~300万円アップはざら。「場合によっては倍増するケースもある」(転職エージェント)というから岡田さんは驚いた。「文字どおり、引く手あまただった」と振り返る岡田さんは、最終的に5社に応募し、うち4社から内定を得ることができたという。

コンサルは高級人貸し業に

なぜ、コンサル会社がこうもIT人材を求めているのか。その背景には昨今のデジタルトランスフォーメーション(DX)需要の高まりがある。

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DXとは何か。経済産業省が2018年にまとめたDX推進ガイドラインによるDXの定義を要約すると、「データとデジタル技術を活用してビジネスモデルだけでなく企業文化や組織まで変革し、安定した収益を確保できる仕組みをつくる」ことだ。となれば単にITの知識や技能を持っているだけではダメで、会社全体を変革できるような視点や知見が必要になってくる。しかし、一般企業にはIT人材さえ乏しいのが現状だ。

そのため、がぜんコンサル会社の存在感が高まっている。というのもコンサル各社は、数年前からIT人材の確保に走り、すでにかなりの人数を抱えて教育を施しているからだ。DXの時代が来ることを見越していたのだ。

企業はこぞってコンサル会社を頼り、今や彼らは“高級人貸し業”として、知識と技術を併せ持った人材を企業に提供しているのだ。

『週刊東洋経済』5月10日発売号は「コンサル 全解明」を特集。デジタル化を背景にバブルの様相を呈しているコンサル業界の今を始め、ビジネスモデルや給料や待遇に至るまで、業界の表と裏を解き明かしている。

かつてないほどの需要に沸くコンサル業界だが、あるコンサル会社の首脳は「圧倒的に人が足りない」とこぼす。それもそのはず。DXは日本の企業全体が取り組まなければならない喫緊の課題で、既存の人員だけでは対応できない。だからこそ、コンサル各社はIT人材の確保に奔走しているのだ。

実際、争奪戦が過熱している。大手だけでも、新卒・中途合わせて年間5000人以上を採用。また、コンサル会社は従来、業界内の経験者を即戦力として採用することが多かったが、ここ数年はコンサル業界における人材の流出入を見ると、異業種からの中途採用が7割を占める。この6年ほどでコンサル業界への転職者数は4倍に激増したほどだ。実数は明らかでないが、数千人規模と考えてよい。

もちろん、業界内での奪い合いも引き続き活発だ。現在よりも高い給料をちらつかせて、引き抜きをかけてくるケースも少なくないといい、結果、コンサル業界全体の年収水準もうなぎ登りだ。

(出所)『週刊東洋経済』5月10日発売号「コンサル全解明」