「年齢への焦り」で転職した37歳の彼が迎えた結末

年齢への焦りから、12年間勤務した会社を離れることにした男性。しかし、転職先で思わぬトラブルに巻き込まれ、7カ月で出戻り転職することに(写真:monzenmachi/GettyImages)
人手不足が深刻化して久しく、「いい人材」との出会いは年々難しくなっている。そんななか、注目を集め始めているのが「出戻り転職」だ。会社の良い部分も悪い部分も知っている彼らがもし戻ってきてくれたなら、会社を動かす存在になる可能性がある。
この連載では実際に出戻った人と、受け入れた企業、それぞれに話を聞き、「出戻り転職」の可能性を探っていく。

「愛を込めて…」退社もわずか7カ月で出戻り

インターネットビジネス黎明期からSEOを中心としたサービスを行ってきた株式会社ジオコード。その広報として働いている加藤康二さんが、今回の主役だ。

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加藤さんは創業まもないジオコードに8人目の社員として入社し、12年の勤務ののち37歳で転職。

退職時には自身のブログにその時の気持ちを綴っている。始まりはこうだ。

「12年2か月と21日、日に換算すると4465日……余計にわかりづらいので約12年間、大変お世話になった株式会社ジオコードを6月末で退職します。」

創業者である社長から、当時流行していたmixiの日記に仕事の誘いを書き込まれたことから始まる加藤さんの物語は、

「4465日もの間お世話になった株式会社ジオコードに愛を込めて……」

という、壮大な言葉で締めくくられる。ひとつの大きな区切りを決断したことがよく伝わってくる記事だが、結論から述べると、加藤さんは7カ月ほどでジオコードに再入社することになった。

ベンチャー企業の創業期からの社員であること、退職時にブログを書くこと……などに対し、自分が所属する会社とは異なる業界で起きている「他人事」のように感じる人も多いかもしれない。

しかし、彼の話をよく聞いていくと「転職が盛んになった時代に、ひとつの企業で仕事に打ち込んできたビジネスパーソンが抱える悩み」という、普遍的なものが見えてくる。

「転職市場での価値が落ちる」焦りから転職

彼がジオコードを退職した理由は複数あった。具体的には「自分の市場価値への不安と、年齢への焦り」「働き方の自由度(オフィス勤務が前提で、広報にとって重要な外交的な時間を確保しにくかった)」「予定していた上場が延期になったこと」の3つだ。

「転職を考え始めたのは35歳頃のこと。『もう長くこの会社にいるけど、転職市場では自分の評価ってどうなんだろう?』と考えるようになったんです。ジオコードへの入社も社長からの誘いだったこともあり、自分はしっかりとした転職活動をしたことがありませんでした。それゆえ、客観的に自分のスキルを知るタイミングがなかったんです」

転職へのハードルが下がりつつある現代では、同じ企業に長く勤めることに対する焦りを持つ人が多い。これはフリーランス人事として、多くのビジネスパーソンの転職に日々関わっている筆者も感じていることだ。

「正直、焦っていたと思います。年齢を重ねることによって転職の選択肢もみるみる減っていくというか、日に日に自分の市場価値が下がっていく気がしていました。そんな中、広報として”会社の上場に立ち会う”経験ができるのは、自分のキャリアにとって大きなプラスになるはずでした」

しかし、予定していた上場は延期となり、2~3年は見通しが立たない状態となった。

「広報という仕事柄もあり、自分は昔から社外の仕事仲間と交流を持っていました。広報だったり、PRだったり、記者だったり。よくお互いの仕事の話もしていて……。そうやって他の人の話を聞けば聞くほど、『外に出てみたい』『広報スキルの幅を広げたい』という思いが募るようになっていました」